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美容室の“パワハラ“どうなくす?美容室オーナー&店長必見の事例&対策4選
労働環境、職場環境の改善や見直しが進む現代、「パワハラ(パワーハラスメント)」という言葉を知らない人は今やほとんどいないのではないでしょうか。
運送業、接客業、医療の現場、はたまた政治の世界などで起こるパワハラによる裁判や、その結果の自死などのニュースが頻繁に耳にされる今。
美容業界も他人事ではないと思います。美容室というクローズドの空間の中、毎日同じ仲間と顔を合わせる業態であると同時に、職人仕事であり“徒弟制“の文化や慣習が色濃く残っている業界だからです。
パワハラが原因の悲しいニュースが美容室で起こり、ニュースになってしまうことは絶対に避けたいことです。パワハラは他人事ではなく、ほとんどの場合「自分は大丈夫」と自覚がありません。
そこで、今回は社会保険労務士の船津和繁さん(アクエルド社会保険労務士法人 代表)に美容室で起こりやすいパワハラ事例と対策についてうかがいました。
経営者や店長・幹部が自分が加害者にならないために、また加害者をサロンで産まないために何をすればいいかもまとめていますので、ぜひ最後まで読んでくださいね。
美容室の“パワハラあるある“原因と対策
ーーまず、一言でいうとパワハラとは何なのか、何がパワハラにあたるのか教えていただいてもいいですか?
が、これがパワハラという定義は難しく、たとえば上司→部下だけのものとは限らないんですね。部下→上司のパワハラもあるし、同僚上司のパワハラもあります。
パワハラを防ぐ第1段階は、行動類型を知ることになります。
ーー行動類型って何ですか?
行動類型とは、パワハラとなる代表的な行動の例です。身体的・精神的な攻撃だけでなく、人間関係から切り離して孤立させる、無理な業務を突然押し付けたり、逆に業務から“干して”しまう。さらに個人的な趣味・嗜好について必要以上に聞くことも代表的なパワハラの例です。
パワハラは暴言や暴力だけではないということを知っておくべきですね。
そのうえで、これらの行動類型を自分や周りの社員に置き換えて「あるある」を知ることが対策につながります。
あるある❶「もう帰れ」「明日から来なくていい」解雇予告は口頭でも成立してしまうって知ってた?
解雇は口頭でも成立してしまうので、特に「明日から来るな」は即日解雇にあたり、解雇予告手当を30日分支払わなければならないということになります。
ーーいきなりありそうな事例。編集、結構厳しい習い事をやっていたのですが、よく言われてましたもん、帰れって。そのノリで言っちゃう人は多そう。
ーーこういう「売り言葉に買い言葉」みたいな失言はどう防げばいいんでしょう。自覚だけだとなかなか…
ところが、スタッフが録音したテープを聞くと確かに言っているというケースが多い。
ーーうわあ、なんか最近そういう政治家おられましたね…
この対策については、後ほどまとめて説明しますね。
あるある❷怒鳴りつけ×反省文のコンボは強要罪にあたる可能性も
ーー叱責を通り越した暴言みたいなのはありそうですよね。狭い空間でずっと一緒にいるので、お互いにストレスも溜まりそうですし
「バカ」「アホ」などの暴言は、刑事事件に発展する可能性があるということを知ってほしいと思います。侮辱罪にあたる可能性があるんですよ
ーー暴言は論外ですが、言われたと言う話を耳にすることがあります……。ことの重さの自覚なく怒りに任せてスタッフにあたっている人、いるのではないでしょうか。
これは強要罪にあたる可能性があります。強要罪は未遂でも成り立つので「反省文を書かせる」と予告した時点でアウトですね。
強要罪とは?
本人または親族の生命・身体・自由・名誉・財産に害を加えると脅迫し、または暴行によって人に義務のないことを行わせ、もしくは権利の行使を妨害する罪。
そもそも罰金は「賠償予定の禁止」(労働基準法第16条)に抵触するんですが、暴言や脅迫を伴った罰金はもっと重い罪になる可能性があるということを知ってほしいですね。
あるある❸「服おかしいだろ」「センスない」ブランディングのための服装指導も“規定“がないと侮辱罪にあたる可能性
ーー今度は私の方が気になる“あるある“なんですけど、容姿に関するいき過ぎた指導です。それこそ、昔は体重計がバックヤードにあって太ると叱責されるみたいなことがあったと聞くんですが
ーーそこまでのは少ないと思うのですが、美容師さんは人前に立ち、自分が看板になる仕事なので、ある程度の外見に対する指導が必要な業種ではあるなと思っていて。自己プロデュース的な部分で。その上で、どこまでがセーフなのかは知りたいのではないかと思うんですが
ーーなるほど。合理的かどうかというのは、どのように判断すればいいんでしょうか?
代表的なパワハラとなるわけです。
服装に関しては、注意の仕方が公平であるように規定をすれば指導することができます。就業規則の服務規程で、着用してはいけないものなどを細かく指定しておくことをお勧めします。
ーーなるほど、規程の範囲で指導することで公平性と納得性を高めるんですね。
規程に決められていない内容について関係ないスタッフが、一方的に個人攻撃を交えて、または業務以外のことを持ち出しながら服装のことを注意したり叱責したりするのはパワハラにあたると思っておきましょう
あるある❹売り上げトップのパワハラに手がつけられない問題
ーー経営者→労働者以外のパワハラ事例だとどんなものがあるでしょうか?
大体において、パワハラの相談は“事後“に来るんですよ。事前に対策しようという気がある経営者が少ないことが問題のように思います。
ーーそれはなぜなんでしょう?パワハラは今こんなに問題になっているのに……
本来、突発的なパワハラで、訴えられることなく人が“辞めるだけで済んだ“としても、せっかく教育した人を競合他社に取られていることになり、よその教育費を払ってあげていることになってしまう。その辺りの意識が低いと、「ごまかしきれた」と思っても、実は収支を見ても大きな穴が空いたままで人がどんどん辞めていく……という負のスパイラルに陥ってしまうんですよ。
辞めた人材に費やした教育費、離職後の求人広告費、その代償は大きなものとなります。
ーーどんなに売り上げがあっても、パワハラする人を店においておくのは“人財“という資産を食い潰していることになるんですね……
調査の結果、離職率が低いところは、教育や評価制度が充実しているということ、人材の定着が労働人口の確保と質のいいサービスの提供に貢献することが分かっているので特別に国は報酬を与えているのです。
その反面パワハラは離職率の悪化を招き、結局は業績の低下へとつながります。
どこのサロンも教育に力を注いでいますが、パワハラへの意識は低く、目に見えない総額人件費(求人コスト、教育コスト)の悪化から収支を悪くしているところも多いようです。
介護の現場は国の測定で判明しましたが、どの業界でも離職率の高さは確実にパワハラと比例しており、業績にも大きく影響していると思います。
経営者・管理者が振り返るべきは「カッとなったときの自分の傾向」
ーー最後に、パワハラ加害者にならないためにすべきことを教えてください。
パワハラに気づいていない人・対策していない人って、火事なのにリビングでお茶を飲んでるみたいなもので、周りの右腕や部下など、他人がどうこうできる問題じゃないんですよ。自分で「火事だ」と気づいて対策してもらうしかないと思っています。
ーー自分で自分を振り返る、知るというのは難しいようにも感じるのですが。
何を言われるとカッとなってしまうか?自分は怒りやすいタイプか?と言ったことを知るのも有効です。
怒りやすいことを直すのは難しいですが、怒りやすいとわかっていれば「その場を離れる」というのも対策の1つです。
ーーなるほど、感情的になる場を自分で減らすことができるんですね。
「遅刻が絶対許せない」という経営者だったら、1回遅刻したら何というか?3日遅刻してきたらどう処分する?といったシミュレーションをしておくと、その場でカッとなることも防げるかと思います。
経営者はさらにパワハラ店長・幹部のチェックも怠らないで
ーー経営者は自分だけでなく、部下である店長や幹部がパワハラをしていないかチェックする責任もありますよね。どうすれば良いのでしょうか
仮にその店長や幹部のパワハラが原因でなくても、その人の配下だけ離職が高いということは人員配置や業務量など、他の問題を見つけるきっかけになりますからね。
ーーパワハラは人材定着・教育の諸問題の1つに過ぎないんですよね。「ちゃんと教育する」仕組みを整えることが、一番の対策になるんだとわかりました。
会社として教育の力がないのを、採用でくじ引きするようなやり方をしていることがパワハラ問題の温床になっていると思いますね。
また、お客さまは腕の良し悪し以上に「雰囲気が悪い」は敏感に気付きます。人材・顧客といった美容室にとって大切な“財産“を守るために、教育や労働環境の見直し、自分の振り返りに着手してほしいと思います
AUTHOR /ななしま
月刊NEXT LEADER編集部→月刊BOB編集部→書籍編集部。好きなものは宝塚と蛙亭と、赤井秀一です。