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4月になる前にチェック! 美容室の新入社員 採用の際に気をつけたい労務改善4つのこと
昨日始まったと思った2021年ですが、1月もあと4日……。新型コロナウイルス感染拡大の影響による緊急事態宣言の再発令など、美容室経営者のみなさんにはあわただしい年始になったことと思います。
そんな中でも採用活動を行い、4月に新入社員の入社を控えている美容室も多いはず。助成金の申請や資金繰りといった‟応急処置”に追われる時期でもありますが、採用した新入社員が辞めずに定着することが長い目で見ると最大のコスト削減になるともいえます。
今回は、今見落としがちな「採用前に気を付けるべき労務改善」と題して、美容室のスタッフ採用における‟あるあるトラブル”&その対策を紹介。
大変な情勢であなたのサロンを選んでくれた新入社員が長く働き続けられる環境を守るために、ぜひ今こそチェックしたいところ。また、4月に入社予定のスタッフさんや現場の社員のみなさんも、長く美容師として活躍するために正しい労務知識を身につけていきたいところです。
※ この記事は『本当にあった美容室労務トラブル39』(船津和繁/アクエルド社会保険労務士法人・髪書房刊)を再編集したものです。
採用前に見直す‟労働時間”
入社前研修、給与払わなきゃダメ?
新採用者といえどフロアに立った時からプロとして活躍してほしいので、入社前に2日間みっちり研修を行います。
これに対し、昨年ある新採用者から「給料は出ないのか」と問い合わせが! 入社前の‟見習い”の段階なので当然出ないと突き返したところ、2日分の給与を求める内容証明が届いてしまいました。
労務士・船津さんの回答
結論は、これは労働時間とみなされると思います。
判断のポイントは「指揮命令下」にあるかどうか。強制参加か自主参加かということです。表向きは自主参加とうたっていながら参加しないと業務に不利益が出えるような場合も、指揮命令下にあるとみなされます。
まとめ
・レッスンと同じく自由参加でなければ入社前研修も労働時間とみなされる
・研修の賃金は内定によって決定した労働条件に従って算出される
・これらのことは書面で明確化することが必要である
採用前に気を付けて! ‟賃金規定”
ルール違反の罰金は違法!?
美容師たるもの‟遅刻”はあってはならないこと。賃金規定の備考に「遅刻1回につき2,000円の罰金」を定めました。遅刻をしないなんて普通に仕事をしている人には当然のことで、困るのは情熱が足りないスタッフのみだと思うんです。
それなのに、あるスタッフが「罰金制度は違法なのでサインしない」との抵抗が! 遅刻しなければ誰も損しないのに。
このこだわりの項目、どうしても載せたいのですがダメでしょうか?
労務士・船津さんの回答
これはスタッフさんの言う通り違法な制度になります。罰金が違法であることの根拠は、労働基準法第16条「賠償予定の禁止」で定められており、実際に請求したかではなく、賠償額の予定を契約書に記載しただけで違法となります。
契約書はあくまで契約事項を記すもの。熱意は熱意として、感情的な判断を盛り込んで労働契約書を作成することは大きなリスクになります。
まとめ
・労働契約書に罰金制度の記載は絶対にしない!
・減給に関しても金額の限度額が決まっている。コレを超えると労働基準法違反に!
・熱意、哲学などの感情的な判断を労働契約に持ち込まない。
美容室の採用一番の落とし穴!? ‟試用期間”
‟本採用しない”と言ったら、不当解雇!?
弊社では本採用前に3カ月の試用期間を設けています。昨年ある新入社員に対し、試用期間を経て技術レベルの上達が弊社の求めるレベルに達していないので本採用しないと申し渡しました。
すると、彼の依頼した弁護士から解雇予告手当と損害賠償を求められてしまいました。これで‟不当解雇”なんていわれたら、何のための試用期間なのか。納得がいきません。
労務士・船津さんの回答
ずばり、今回のケースは不当解雇に当たります。本採用をしないというのは解雇と同じだからです。試用期間でも雇用は発生しているので、自由に解雇はできません。
試用期間とは、本採用よりも少しだけ解雇権が広く使える労働期間です。
・ 勤務中の態度や姿勢が極めて悪い
・ 遅刻や欠勤を何度も繰り返す
・ 入社時に虚偽の事実(犯罪歴など)が発覚した
といった理由などが‟正当な理由”として考えられます。
そして、仮に解雇理由が‟正当”だったとしても、試用期間での解雇の条件については就業規則の服務規程や労働契約書に記載する必要があります。
まとめ
・試用期間の意味を正しく理解し、適正な採用活動を行う
・本採用の取りやめに関する条件は、就業規則や労働契約書に記載する必要がある
・本採用の取りやめはあくまで最終的な対抗手段として慎重かつ適正に対応する。
2カ月間契約社員として採用して社会保険を節約⁉
先輩から聞いた裏ワザなのですが、社会保険って2カ月以内の契約社員は適用除外者なんですよね。
だから、僕のサロンでは正社員として採用したスタッフに、まず2カ月試用期間として雇用契約を結び、その後の正社員としての再契約の際に社会保険加入するスキームにしているんです。
ところが去年、採用予定の内定者から社会保険に加入させろとクレームが。ルール内で運用しているのだから無視していいですよね?
労務士・船津さんの答え
単刀直入に、違法行為です。これは社会保険の適用除外対象条件のうちの
「2月(ふたつき)以内の期間を定めて使用される者」
を拡大解釈したものかと思われますが、これは臨時や特別の事情があり2カ月限定で働くスタッフのこと。今回のようにあらかじめ更新する前提での契約社員の場合は、当然雇入れ初日から社会保険加入の義務が発生します。
調査などで発覚した際は、遡って支払いを求められることになるでしょう。調査が来ないあいだバレなければよいというのではなく、ただちに本来の適法な運用に適正化してください。
まとめ
・社会保険の加入義務について、内容を正確に把握すること。
・加入義務について不明な場合は、勝手に判断せず専門家に相談すること。
・こういった誤った取り扱いは「バレなければよい」と隠すのではなく、正しい運用に改めること。
美容業は「生活に必要な職種」だからこそ人材は財産
いかがでしたでしょうか?
認識や運用が間違っていたところがあったら、ぜひ今から見直しを始めてください。
美容師さんの技術やサービスが価値となる美容室にとって、社員やスタッフが長く働ける環境を整えることがコスト整理である以上に資産づくりにもなります。
美容業は国に認められた「生活に必要な職種」であるからこそ、これからも安定したサービスと技術をお客さまに提供していくためにも、志をもったフレッシャーズたちが辞めずに活躍できる環境をめざして労務改善をしていくことは急務であると思います。
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AUTHOR /ななしま
月刊NEXT LEADER編集部→月刊BOB編集部→書籍編集部。好きなものは宝塚と蛙亭と、赤井秀一です。