ボブログ

vol.18 ジャズる!? ボブログ音楽食堂Vol.18 バリー・マニロウの巻

–序章-

 

 情報社会に埋もれてしまった名曲/名盤(迷盤!?)のホコリを払って美容師のみなさまに紹介する「ボブログ音楽食堂」。

 

前回から始まった新シリーズはずばり!「ジャズ」。超が付く優秀な音楽家たちでさえ手を出すのを躊躇する、とても高次元な音楽フォーマットです。

 

この「ジャズる!?ボブログ音楽食堂」ではまず数回、JAZZに羨望の眼差しを向けるロックンロール、ソウル、ポップス畑のミュージシャンたちが録音したジャズ「ふう」の作品=セミ・ジャズ・アルバムにスポットを当てています。

 

いきなりJAZZはちょっとなぁ…と気後れしている貴方も、ここから入れば少しずつ身体がほぐれ耳が肥え、気付いた時にはどこからでもかかっていらっしゃい!というくらいの免疫が備わるかも!

 

 

 

 

[第一章] アンプラグドとセミ・ジャズ・アルバム

 

 

本題の「セミ・ジャズ・アルバム」に入る前に、ちょっとだけ音楽史をおさらいさせて下さい。1990年前半の米音楽界は、音楽専門チャンネルMTVのドル箱企画「アンプラグド/unpluggedが大ブームでした。

 

言葉通り、電気楽器のプラグを差し込まない=あえてアコースティック楽器だけで演奏するというかなり無理強いの企画でしたが、エリック・クラプトン氏がこの番組用に演ったLIVEアルバムが狂ったように売れまくったのがブームの発端でした。

 

 

“UNPLUGGED” / Eric Clapton(1992) この時クラプトン氏がメインで弾いたアコースティック・ギターは、米Martin社の000-28(=トリプルオー28)というモデル。これを観たギターキッズはエレキギターを押し入れに放り込み、サラリーマンも酒屋の御用聞きも一斉に000に買い替えたほど

 

 

 

****************************************

 

 

[第二章] 猫も杓子も老ロックスターもスタンダード!?

 

 

このアンプラグド・ブームから時は流れ、21世紀に突入して間もなくこれとよく似た現象が米音楽界に起こります。ジャズ・ミュージシャンが好んで取り上げるスタンダード曲だけを集めたアルバムを、ロックンロールやソウルやポップス畑の有名歌手たちが先を争うように作り始めました。

 

これは「スタンダード・アルバム」と称され、全盛期を過ぎて商品価値が希薄になった老ロック・スターたちの “起死回生の企画” としてこれまた大ブームとなりましたが、実は遡ること1970年代からすでに存在していたリサイクル企画です。

 

このスタンダード・アルバム企画、歌手本人の「表現の欲求」から発生することは極めて希で、“これをやればそこそこ売れるから” という手堅い商品フォーマットです。これに便乗した”二匹目のどじょう”的アルバムと、名歌手たちが創造・欲求の到達で制作した「セミ・ジャズ・アルバム」は、老眼鏡なしでも見えるくらいにぶっとい一線を画して聴かれるべきです。

 

 

****************************************

 

 

[第三章] 歌って踊らないバリー・マニロウ!?

 

 

 米音楽界屈指のベストセラーミュージシャン:バリー・マニロウ/Barry Manilow氏は、1984年に音楽キャリア念願のセミ・ジャズ・アルバム「2:00 AM PARADISE CAFE(深夜二時パラダイスカフェで)」を吹き込みます。表題に2:00とありますが、あと50分待ってもえがちゃんが物申すことはありません。

 

表題はそのままアルバムの「コンセプト」。店の仕事がハネた深夜2時ころ、街のあちこちからパラダイスカフェにミュージシャンが集まり自由気ままに演奏に興じる「アフター・アワーズ・セッション」の雰囲気を忠実に再現すべく作られています。

 

 

” 2:00 AM PARADISE CAFÉ ” / Barry Manilow(1984)

 

 

一聴して気付くのは、前の曲のエンディングと次の曲のイントロ間にあえて無音部を入れていないこと。まるで自由きままに次々と演奏を続ける”セッション”のようです。

 

曲や演奏はあえて「どジャズ」にせず、アルバム全体のJAZZYな雰囲気を優先したかのような2:00 AM PARADISE CAFÉですが、朝夕の通勤時にちっちゃなイヤホン+i-Podだと魅力が半減します。できれば人通りが少ない時間帯に、なるべく大口径ドライバーの「ヘッドホン」でじっくり聴いてみて下さい。

 

最も理想的なのはお部屋で独りの時。スピーカーから出た音が空気を振動させて貴方の耳に届く環境がベストです。大音響だと逆に雰囲気はぶち壊れます。近所からクレームを貰わない程度のひっそりとした音量で聴くと最も美味しく感じるでしょう。ポップス畑の人がつくったジャズっぽいアルバムはいままで沢山聴いてきましたが、マニロウ氏の2:00 AM PARADISE CAFÉは十年に一度お目にかかれるかどうかの秀逸なセミ・ジャズ・アルバムと断言できます。

 

 

慎重かつ繊細なディレクションで臨み、リラックスした雰囲気と程よい緊張感が混じりあった録音スタジオの様子が、目を閉じて聴いているとリアルに見えてくるようです。米音楽業界プロ中のプロが「やりたい!」と思って取り組むと、何十年も聴き続けられる逸品ができ上がるという正に絶好の例であります。

 

 

****************************************

 

 

[第四章] セミ・ジャズ・アルバムなのに超一流のJAZZミュージシャンって!?

 

 

マニロウ氏に懇願されて参加を快諾したのはジェリー・マリガン(baritone sax)氏、マンデル・ロウ(guitar)氏、ジョージ・デュヴィヴィエ(bass)氏、シェリー・マン(drums)氏の4人。ジャズを聴き始めて最初の角を曲がる頃には誰でも一度はお世話になる、米ジャズ界の大名人ばかりです。

 

特筆すべきはこのセミ・ジャズ・アルバム、全曲をマニロウ氏が書き下ろして臨んだ力の入れよう。もともとピアニスト/編曲家としてキャリアをスタートしたマニロウ氏が自身のピアノ・パートは最小限に抑え、キャリアの初期から起用していたピアニスト=ビル・メイズ(Bill Mays)氏にほぼ任せるという慎重さ。各パートを別々に録って後日ひとつにまとめる方法ではなく、編曲を配って簡単に打ち合わせ「じゃあ演ってみましょうか」で録る、ジャズのレコード制作では鉄板の「一発録り」で臨んだアルバムです。

 

 

****************************************

 

 

[第五章] 他人のふんどしで土俵にあがるスターもいれば…

 

 

お手軽スタンダード・アルバムで「あるある」の客引き商法が、他の有名歌手を引っ張り込んで無理やりデュエットさせる「フィーチャリング〇〇〇」や「デュエットwith 〇〇〇」。他人のふんどしを借りて土俵に上がるこの企画は短期的な売り上げには貢献「大」ですが、そのアルバムの普遍性~永年聴き継がれる可能性にはむしろ致命的な後遺症となり得る「愚策」です。

 

これを心得ていたマニロウ氏はファンさえ気付かないほどひっそりと実行。敬愛する歌手サラ・ヴォーン(Sarah Voughan)氏とメル・トーメ(Mel Torme)氏をスタジオに招き一曲ずつ録音し、大風呂敷を広げることなくアルバムに収録して発売しました。デュエット一曲だけのためにまる一日スタジオを押さえたと知ったヴォーン氏、「一曲だけのために?スタジオを一日中?あたしとアルバムを一枚つくるつもりだったの!?」と本気で驚いたそうです。

 

 

****************************************

 

 

[第六章] 実はデビューからJAZZっていたバリー・マニロウ

 

 

超有名なのにとても謙虚なマニロウ氏ですが、実はピアニストとして歌手としてジャズを演る実力は充分にあるお方です。彼が1973年にアリスタ・レコードからソロ・デビューした1stアルバム「BARRY MANILOW(Ⅰ)」収録のCLOUDBURSTでは、ジャズ演奏家がアドリブで吹いたメロディーラインに歌詞を乗せ歌いちぎる超絶テクニック=ボーカリーズ(Vocalese)に自身のピアノとともに挑んでいます。

 

 

 

“Barry Manilow” / Barry Manilow(1973) 白い方は初出時のアートワーク。後に再発された際ファースト・アルバムであることを判別するために「Ⅰ」の文字が追植された

 

 

 

マニロウ氏のジャズ・センスは、続く1974年の2ndアルバム「BARRY MANILOWⅡ」収録の高速スイング・ナンバーの「Avenue C」 でも聴けます。カウント・ベイシー楽団の全パートにこれまた歌詞を乗せ、自身で32回も歌い重ねて “ひとりボーカル・ビッグ・バンド” を決行。堅気のジャズ愛好家をも「すげー」と唸らせること必至の超クリエイティブなセミ・ジャス録音です。

 

 

”BARRY MANILOWⅡ” / Barry Manilow(1974)

 

 

****************************************

 

 

[最終章] ところで「セミ・ジャズ・アルバム」って!?

 

 

唐突ですが、前回から私が連呼している言葉=「セミ・ジャズ・アルバム」。実はこれ、マニロウ氏が横浜で一晩だけ演ったコンサートの舞台上で語った言葉です。

 

“私にはJAZZは出来ませんが、私がJAZZを敬愛していることをどうしても形に残したくて「深夜二時パラダイス・カフェで」というセミ・ジャズ・アルバムを作りました。今日はその中から沢山演奏しようと思い、優秀なサキソフォン奏者を連れてきました。彼女は本物のジャズ・ミュージシャンです!”。

 

米国では泣く子も黙るほどの大スターにもかかわらず自分にはジャズができませんときっぱり言い放ち、雇って連れてきた若い女性アルト奏者のことを“この人は本物のジャズ演奏家”と紹介したのは、単なるステージ演出だったとは思えません。

 

既に何でも思いのまま、好き勝手に振まおうと誰も文句を言わないであろう超VIPミュージシャンでしたが、才能だけでなくその謙虚さも成功した一要因なんだろうなと、ステージ上での短いおしゃべりを聞いて痛感したのでありました。

 

多くのメガ・ヒット曲を排出したマニロウ氏が切望して挑んだ2:00 AM PARADISE CAFÉ。発売されてから40年が経とうとしているこの作品、これからジャズを聴き始める方に特にオススメしたい秀逸なセミ・ジャズ・アルバムです。貴方もぜひ一度聴いてみください!

 

ボブログ音楽食堂「バックナンバー」のご案内! 

Vol.1「心が洗われるような、いい音楽ありませんか?」は→コチラ

Vol.2「踊るROCKに観るROCK、ちょっぴり大人のAOR」は→コチラ

Vol.3「アラ40/アラ50のお手本としてアニーとクリッシーを拝むべし!」は→コチラ

Vol.4「アラ40アラ50にオススメしたい! 69歳の女性ロック・シンガー、クリッシー・ハインドの傑作スタンダード集」は→コチラ

Vol.5「おうちにいてもワイハでアロハ!!の巻」は→コチラ

Vol.6「違いの分かる女が斬る! J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲のあれこれ!」は→コチラ

Vol.7 「笑い転げて腸捻転!?世界の珍盤/奇盤/迷盤特集」は → コチラ

Vol.8 「唸るオルガン!その名はハモンド!」は → コチラ

Vol.9 「怒涛のハモンドオルガン特集 其の弐」は → コチラ

Vol.10「ビートルズ豪雨後の筍を狩る! 其の壱」は→ コチラ

Vol.11「ビートルズ豪雨後の筍を狩る! 其の弐」は→ コチラ

Vol.12  歌「だけ。」=ア・カペラ は→ コチラ

Vol.13 クリスマスの「隠れた名曲」クリス・レアの巻は → コチラ

Vol.14 「まるごと粋なクリスマス・アルバム特選」は → コチラ

Vol.15 クリスマスの「隠れた名曲」オノ・ヨーコの巻は → コチラ

Vol.16 まるごと粋なクリスマス・アルバム特選 「其の弐」は → コチラ

Vol.17 ジャズる!? ボブログ音楽食堂 Hi-Fi-Setの巻は → コチラ

easyman

AUTHOR /easyman

ビートルズが来日した年の生まれ。美容師・介護士の免許と実務経験があり、座右の銘は“髪(かみ)のケアから下(しも)のケアまで”。某美容メーカーの教育部門に19年間勤務し、なぜかプロ音楽家との演奏経験あり。一人しかいないのにナンバーワン営業マンと呼ばれる髪書房の特攻隊長。

この記事が気に入ったらいいね!しよう
Facebook Twitter Line

PICK UP BLOG

\ ボブログTV 公式SNSで最新情報をゲット! /