ボブログ

特選!まるごと粋なクリスマス・アルバム ボブログ音楽食堂Vol.14

-序章-

情報社会に埋もれてしまった名曲/名盤(迷盤!?)のホコリを払って美容師のみなさまに紹介する「ボブログ音楽食堂」。Vol.14のテーマは、年に一度世界中がそのムード一色に染まる大イベント「クリスマス」。

 

今回は、最後までかけっ放しでい~い気分になれるクリスマス・アルバムの大特集。題して「特選!まるごと粋なクリスマス・アルバム」。ひとりの時も仲間と過ごす時も、またクリスマスが嫌いな方でも楽しめる粋な作品がたくさん登場します!

 

 

[第一章] りさちゃんの粋でブラジリアンなクリスマス

 

クリスマス・ソングの「いい曲」はとてもたくさんありますが、一枚まるごと聴き通せるアルバムはというと……これがなかなかお目にかかれないのが不思議です。私は10代のころから現在まで、クリスマス・アルバムを集めては季節不問で聴き続けるというヘンな趣味があるのですが、多くの場合そのアルバムの中に“好きな曲”が入っているという理由で買っています。気付けば棚の一段がぜんぶクリスマス・アルバムという状態にもかかわらず、アルバムの中の1~2曲だけを繰り返し聴いているのが実情です。

 

まるごと楽しめるクリスマス・アルバムってないんかい!? とお嘆きの貴殿に贈る今回のボブログ音楽食堂。「特選!まるごと粋なクリスマス・アルバム」の一枚目は、我らが世界に誇る小野リサ氏が2000年に自らプロデュースし、ブラジルと日本の音楽仲間を集めて録音したBoas Festas/ボアス・フェスタス」です。一曲目から最後の曲までがぜーんぶ心地良いクリスマス・アルバム、否、クリスマスを無視しても秀逸なブラジル音楽のアルバムとしてオススメしたいです。

 

 

“Boas Festas”/ Lisa Ono(2000) 生地ブラジルと欧米の冬の名曲を、りさちゃんワールド一色に塗り替えた傑作アルバム。楽しい宴で流しているといつの間にか会話が少なくなり、そのうち皆でうっとり聴き入るという(実話です)催眠術のような音楽がたっぷり詰まっている。クリスマス・アルバムは、同じ中身が表紙デザインだけ刷新して再発されるので要注意。このアルバムは表題曲「Boas Festas」が収録されていれば間違いなし!

 

 

ここでちょっと話が逸れますが、私は小野リサ氏のことを“りさちゃん”、ドリカムの吉田美和氏のことを“よ・し・だ”と、自分とほぼ同世代というだけの理由で勝手に呼び捨てにしている無礼者ですが、りさちゃんのことを「ボサノバのひと」と認知しているファンがとても多いことに驚きます。雰囲気がホンワカしているので見過ごされがちですが、実は彼女はボサノバに限らず古典から現代まで、ブラジル音楽に用いられているさまざまなリズムを広く深く研究し体得している「音楽名人」であります。

 

1989年に日本のMIDIレコードから1stアルバムCATUPIRY / カトピリ」でデビューした時から「リズムの取り組み方」がとても多彩。クリスマス・アルバムのタイトル曲Boas Festasの曲解説でも “このリズムはマルシャと言います” ときっぱり述べ、ブラジル音楽はサンバやボサノバだけではないんですよ!とニッコリ諭してくれています。

 

りさちゃんの優れた音楽性を証明する余談。私が1990年に英国のmorio from Londonへ渡った際、持参したカトピリのテープを聴いた同僚のルイス君とブルーノ君(ともにサンパウロ生まれ)が、“このひとの音楽はいま(当時は1990年)のブラジル人アーティストよりもブラジル色が濃いね。まるでMPB[*]の百科事典みたいだ” と言い私のテープをちゃっかりと私物化したほど、りさちゃんの音楽はブラジル人の琴線に触れたのでした。

 

 

CATUPIRY / LISA ONO (1989)  りさちゃん27歳の時に吹き込んだ1stアルバム。まるでブラジル音楽の「リズムの総合カタログ」と思わせる多彩さで、安易にボサノバ扱いするのは大きな間違いと聴けば納得。録音とミックスは泣く子も黙る音の鉄人、日本が世界に誇る名エンジニアのオノ・セイゲン氏だ。

 

 

[*] MPB……「ムージカ・ポプラール・ブラジレイラ」を頭3文字に省略した音楽用語。英訳するとブラジリアン・ポピュラー・ミュージックで、広義にはボサノバがピークを過ぎた1960年半ば以降のブラジル音楽を指す。本国での読み方を無理やりカタカナ化すると「エミ・ペー・ベー」だそうで(先記のルイス君:談)、このMPBを“最近ブラジルで流行っている音楽”と誤用するひとも少なくない(実はルイス君がまさにそれ)。

 

 

 

[第二章] このひとだあれ!?と質問攻め!? 粋でJazzyなクラール女史

 

「特選!まるごと粋なクリスマス・アルバム」の二枚目は、カナダ出身のジャズ・ピアニスト&シンガーのダイアナ・クラール(Diana Krall氏が2005年に発売した、その名もズバリChristmas Songs / クリマス・ソングス」です。クラール氏のレコードは聴いたことがないロック・ファンにも、彼女の夫がエルビス・コステロ(Elvis Costero)氏であることは良く知られています。

 

人の出入りが頻回だったかつての職場で冬にこれを流していると、“誰の何ていうアルバムですか?” と日に何度も質問されたという好感度「大」の作品。ビッグ・バンド・アレンジありスモール・コンボでの演奏あり、適所にストリングスやエレピやビブラフォンを配した編曲も秀逸。繰り返し聴いてもぜんぜん飽きない優秀なクリスマス・アルバムです。

 

 

“Christmas Songs”/ Diana Krall featuring Clayton-Hamilton Jazz Orchestra (2005) 誰しも聞き覚えがある有名曲ばかりだが、歌手と演奏者の巧みな解釈&好アレンジで全ての曲が粋でカッコいい。またクラール氏のバンドのレギュラー・ギター奏者ラッセル・マローン氏の甘い音色がアルバム全体で功を奏し、季節を取っ払っても楽しめる優秀なJazzアルバムだ。

 

 

 

実は私がこのアルバムを買った理由はクリスマスとまーったく関係がなく、プロデューサーがTommy Lipuma(トミー・リピューマ)氏で録音&ミキシングがAl Schmitt(アル・シュミット)氏という、まさに泣く子も黙る最強の布陣だったからです。

 

このふたりはGeorge Benson(ジョージ・ベンソン)氏がワーナー・ブラザーズに移籍して最初にかっ飛ばした場外ホームラン・アルバム「Breezin’(ブリージ)」や、ボサノバの天皇陛下Joao Gilberto(ジョアン・ジルベルト)氏の「Amoroso(邦題:イマージュの部屋)」、またロック畑ではMichael Franks(マイケル・フランクス)氏の「Art Of Tea」を大成功させた、米音楽業界の製作畑で「超」が付く大名人なのであります(※Lipuma氏は2017年に逝去)。

 

【左】Breezin’ / George Benson (1975) 【中央】Amoroso(イマージュの部屋) / Joao Gilberto (1977) 【右】Art Of Tea / Michael Franks (1975)

 

 

 

クラール氏の才能は多くの先輩アーティストからもリスペクトされ、米音楽界の国宝的シンガー:バーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand) は2009年の二枚組アルバム「Love Is The Answer / ラヴ・イズ・ジ・アンサー」でクラール氏をプロデューサーに指名。

 

同じ曲リストをフル・オーケストラとクラール氏のスモール・コンボで一枚ずつ録り分けるという超贅沢なアルバムですが、クラール氏は演者バーブラのゴージャスさが前面に出過ぎぬよう絶妙な火加減で調理。ここでも先記のT. リピューマ氏とA. シュミット氏が裏方として見事な手腕を発揮したのであります。

 

 

Love Is The Answer / Barbra Streisand (2009)  produced by Diana Krall Disc-2では自己のピアノでバーブラの歌を包み込むような珠玉の名演を繰り広げている。全編ゆったりとしたテンポで統一された内容は、目を閉じてじっくり聴き入りたくなること必至。

 

 

 

ボブログ音楽食堂「バックナンバー」のご案内! 

 

Vol.1「心が洗われるような、いい音楽ありませんか?」は→コチラ

Vol.2「踊るROCKに観るROCK、ちょっぴり大人のAOR」は→コチラ

Vol.3「アラ40/アラ50のお手本としてアニーとクリッシーを拝むべし!」は→コチラ

Vol.4「アラ40アラ50にオススメしたい! 69歳の女性ロック・シンガー、クリッシー・ハインドの傑作スタンダード集」は→コチラ

Vol.5「おうちにいてもワイハでアロハ!!の巻」は→コチラ

Vol.6「違いの分かる女が斬る! J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲のあれこれ!」は→コチラ

Vol.7 「笑い転げて腸捻転!?世界の珍盤/奇盤/迷盤特集」は→ コチラ

Vol.8 「唸るオルガン!その名はハモンド!」は→ コチラ

Vol.9 「怒涛のハモンドオルガン特集 其の弐」は→ コチラ

Vol.10「ビートルズ豪雨後の筍を狩る! 其の壱」は→ コチラ

Vol.11「ビートルズ豪雨後の筍を狩る! 其の弐」は→ コチラ

Vol.12 歌「だけ。」の芸術=ア・カペラ は→ コチラ

Vol.13  「クリスマスの隠れた名曲 クリス・レアの巻」は→ コチラ

easyman

AUTHOR /easyman

ビートルズが来日した年の生まれ。美容師・介護士の免許と実務経験があり、座右の銘は“髪(かみ)のケアから下(しも)のケアまで”。某美容メーカーの教育部門に19年間勤務し、なぜかプロ音楽家との演奏経験あり。一人しかいないのにナンバーワン営業マンと呼ばれる髪書房の特攻隊長。

この記事が気に入ったらいいね!しよう
Facebook Twitter Line

PICK UP BLOG

\ ボブログTV 公式SNSで最新情報をゲット! /