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阪神淡路大震災からのV字回復の立役者【全国売れっ子スタイリスト連載第23回】最高売上650万円/兵庫県神戸市
月刊BOBの長寿連載、『日本全国売れっ子スタイリストを探せ!』。なかなか知ることのできない、リアルに売り上げが高い美容師さんの数字や取り組みを赤裸々に取材するこの企画。2004年に「人が好き!美容が好き!」というメッセージを掲げて始まり、名前や形を変えながら日本全国の200名近い美容師さんを紹介してきました。(現在の連載タイトルは「日本全国売れてるスタイリストを探せ!」)働き方、ライフプラン、キャリアプランのヒントが詰まっていて、掲載はいつも雑誌の後ろのほうですが反響の大きい企画です。
今回は月刊BOB2006年2月号掲載の第23回をご紹介します(記事内容はすべて、取材当時のものです)。
全国売れっ子スタイリスト連載第23回 山口充[alex(アレックス)/兵庫県神戸市]2006年2月号掲載
山口さんの売り上げデータ
プロフィール
やまぐちみつる◎1970年(昭和45年)9月17日生まれ。35歳。O型、乙女座。栃木県佐野市出身。佐野日大高校卒業。福島県郡山市にある日本大学工学部に入学が決まっていたが、教室でのコンピュータを使う授業を見学して違うと感じ、進学を断念。東京・新宿の山野美容専門学校に入学。 都内の有名サロンに入社するが、半年後、知人を頼って神戸に引越しをする。そして入社したのが神戸のトップサロン、alexだった。神戸震災で大打撃を受けて、復興したときのサロンの店長に抜擢される。そのときに励まし、育ててくれたお客さまが、現在までの美容師としての仕事の支えになっている。多いときには1カ月600万円を突破する超売れっ子。
サロンデータ
あれっくす 社名/アレックスエンタープライズ(株) 本社/兵庫県神戸市中央区山手通 資本金/1千万円 店舗数/20サロン(国内14サロン、海外6サロン)。国内=兵庫県神戸市10サロン(内3サロンはエステ、コスメ、ブライダルサロン)、明石市1サロン、芦屋市1サロン。大阪府吹田市江坂1サロン。東京都目黒区自由が丘1サロン。海外=ニューヨーク1サロン、台湾5サロン。他にレストラン5店、ラーメン専門店3店。九州の大分県湯布院にスパリゾートホテル。 社員/国内200人、海外100人(ニューヨーク20人、台湾80人) 創業/1975年(昭和50年) 代表/アレックス楊
野球部のエースからサロンのエースへ。月600万円を物静かにこなす
神戸のalex(アレックス楊やん代表)。こだわりの空間づくりをして、なおかつ多店舗展開をしている神戸のトップサロン。そんなサ ロンの売れっ子、山口充さん。35歳。身長179cm、体重65kg。かなりのイケメンである。高校時代は野球部のエースで、関東大会ベスト8で、きわどく甲子園出場を逃したスポーツマンだ。今もオーナーのアレックスさんやスタッフと早朝野球を楽しんでいる。仕事も超売れっ子で、1カ月600万円を超えることが珍しくない。物静かで寡黙だが、根性とセンスは抜群!
関東大会ベスト8出身の高校球児が思う、関西の「ありがとう」には気持ちがある。
「これまで悔しかったことっていろいろあるけど、仕事ではやはり、リピートしてくれなかったお客さまのこと。つまり、感動していただけなかったからリピートがないんです」 1カ月売上げ650万円、指名客540人の実績を誇るトップスタイリストにして、やはり残念に思うことはリピートしていただけないこと。美容の仕事はリピートの繰り返しで成り立っている。悔しいのは当たり前だ。 24歳と若くして店長に抜ばっ擢てきされたため、お客に育てられたという意識が、山口充さんには人一倍強い。 「クレーム、文句がいっぱいでした(笑)。好立地のいい客層ばかりで、また来店したいと考えているからこそのクレームですから、謙けん虚きょに受け止めて、『もう一度チャンスをください』と言いつづけました。いい仕事をして満足していただきたいという気持ちの毎日で、ぼくはお客さまに育てられました」 つづいて、うれしかったこと——。 「たくさんあります。でもしいて言えば、お客さんに満面の笑みで『ありがとう』と言われること。関西弁の『ありがとう』には、気持ちが入っている気がする(笑)。実際にそういうときには、後からいい噂を流してくれたり、お礼の手紙がくるんです」 関東生まれだからこそ感じる実感だ。 東京で半年勤めたサロンも超一流だったがalexも技術にこだわるサロン。 「関東はアーチスト、関西は職人(笑)。その違いを理論的に説明しろと言われるとむずかしいですが、これがぼくの印象です。いまだにこの印象は崩れないですね」 でも、関東生まれで関西で仕事をしているから、両方のいいところを取って、半々のバランスでいきたいと考えている。山口さんはなかなかバランス感覚に優れている人だ。
連日26時帰宅のサロンワークで、被災した女性の心に火を灯した
24歳での店長抜ばっ擢てきは、山口さんにとってもエポックメーキングだったが、alexにとっても大きな岐路であった。 ちょうど10年前の、神戸大震災のときである。街がすべて崩壊して美容室の営業も閉鎖せざるをえなかったために、社員をレイオフ(一時解雇)するサロンが多かったが、alexではそれをしなかった(115ページのアレックス楊さんのインタビュー記事参照)。 この決断が銀行からの評価につながり、国の援助もあって、1月に震災にあって5月にはサロンの営業をスタート。そこに抜擢されて店長になったのが山口さんである。 「彼は若かったけれど、任せられると判断しました。実力があるかどうかではなく、可能性に賭かけてみました。素直で実直で真面目。おまけにスポーツマン。あの状況、環境でも何とかしてくれると判断しました」 オーナーのアレックスさんである。 「美容室だけでなく、いろんな企業がレイオフしているのに、オーナーは『全員を守る』と言ってくれました。しかもサロンをオープンしたら、スタイリストになって2年目のぼくが店長です。うれしかったし、やるしかない。もうガムシャラの毎日でした」 美容室が営業を再開するということは、神戸に大きな灯りがひとつ灯ったに等しい。それまで不自由な思いをしていた神戸の女性たちが、alexに殺到した。 毎日帰宅するのは深夜の2時。食事は1日1食だったという。この大きな転機に1カ月500人の客数をこなして以後、500人という数字は特別なものではなくなった。 今でも野球が大好きで得意なアレックスさんが見込んだ、スポーツマンらしい体力とガッツ。震災復興時の困難を乗り越えて、その後の活躍にもつながっている。
野球発想で取り組む美容
アレックスさんも山口さんも、草野球のレベルを超えている。 アレックスさんは名門、報徳学園の野球部に一時、在籍した。だから、今でもチームの4番でサード。打率はずっとチームで首位という。山口さんは関東の強豪、佐野日大のエースで、秋の関東大会でベスト8。もう一 歩のところで甲子園出場を逃がしている。 そんな2人は、今もスタッフたちと早朝野球を楽しむ。朝5時半にはグラウンド集合だ。 年功序列ではなく実力主義のスポーツの世界。野球発想のアレックスさんのサロンが、山口さんにはジャストフィットした。 「東京のサロンでは早朝、深夜練習が当たり前の世界。神戸ではどうしてあまりやらないのだろうと不思議でした。でも自分はやろうと思い立ち、先輩に『見てください』とお願いし、そこからチャンスをつかみました」 夜9時から1時まで、朝は8時から9時まで2年間練習。2年でスタイリスト昇格。 「やるからには負けたくない、というスポーツマン精神です」 甲子園にはもう一歩だったが、野球をやっていてよかったと思っている。 「今のお客さまは『私を見て、似合うようにつくって』『私の良さを引き出して』という方が増えています。全身を見て、トータルのバランスを考えて、個性を引き出す——。これが今大切にしていることです。このような考え方は、オーナーに気づかされました。ただし、『真面目すぎるから、もっと崩せ』とはよく言われます(笑)」 そしてアレックスさん。 「彼はナイスガイ。でも40歳を過ぎたときにもっと幅のある人間性が加わっているといいと思う。男は顔に出るから、もう一皮向けて、もっといい顔になって欲しい」
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