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怒涛のハモンドオルガン特集「其の弐」 ボブログ音楽食堂vol.9

【序章】

情報社会に埋もれてしまった「名曲/名盤」のホコリを払って美容師のみなさまにご紹介している「ボブログ音楽食堂」。Vol.9の今回は、怒涛のハモンドオルガン特集の「続編」をお届けします!今回はかなり地味~ぃなアーティストも登場しますが、10年経っても聴き続けられる秀作アルバムばかり!記事を読んだ方はぜひチェックしてみて下さい!

これが主役のHammond B-3オルガン。そのone and onlyのサウンドは21世紀の現在も世界中のキーボード奏者に溺愛されている

【第一章】塁に出て♪リーリーリーの♪マイケルズ♪

ロックでも吹奏楽でも「バンド」というフォーマットで演奏する醍醐味は、一度味わっただけで中毒化する可能性がありますが、真逆の→ミニマル(=可能な限り少ない)な編成で“無理を承知の実験性”を追求するのも、奏者・聴き手とも抗し難い魅力があります。

ハモンドオルガンには両手で弾く二段重ねの鍵盤とベースパート用のフットペダルが備わっていますので(詳しくは前回のVol.8を参照!)、ミニマルな編成にはまさに一石二鳥の楽器です。つまりハモンドにドラムスかパーカッションが加われば、奏者2名で→ “疑似トリオ(三重奏)” が成立するのです。

4リズム(=ドラムス+ベース+ギター+鍵盤楽器)の一員としてプロのキャリアをスタートさせたハモンド奏者のリー・マイケルズ(Lee Michaels)氏は、ドラマーのフロスティー氏と疑似トリオでアルバム「LEE MICHALES」を録音しました。オルガンとドラマーだけ=音、ショボい…という懸念は大ハズレで、轟々たるハモンドとバズーカ砲のようなドラムスで創り出された極太のロックンロールは、その生涯を直球とカーブだけで勝負し続けた大投手:江川卓氏のごとき潔さと力強さを感じさせます。

“ LEE MICHAELS ” / Lee Michaels 1969  “生まれて以来ずっと考えていた”と豪語する「ふたり疑似トリオ」のハモンドアルバムは、ファンのみならず同業者たちにも大きな影響をもたらした

 

1969年に録音されたこのハモンドアルバム、裏ジャケの解説に「構想23年。総制作時間6時間45分。夕刻17:00にスタジオに入り23:45には完成。」とあります。アルバムの後半にはハモンドで弾いたベースパートに生ピアノ / エレピ / チェンバロを重ねた曲があり、マイケルズ氏のゲロ巧いピアノもたっぷり楽しめます。

この4年後、このふたり疑似トリオはコンサートの実況録音盤「LIVE」を作りましたが、これがロックンロール畑のハモンドアルバムではぶっちぎりの金メダル作品!大勢の観客を前に解放されたマイケルズ氏のオルガンは画びょうを踏んづけたライオンのごとく吠えまくり、ステージ上にたったふたりという緊張感とともに鬼気迫る演奏を繰り広げています。

この遠慮の「え」の字もない怒涛のライブアルバムでドラムスを叩いているのは、後のドゥービー・ブラザーズ(Doobie Brothers)でリズム隊の要となるキース・ヌードセン(Keith Knudsen)氏。戦車の重量感と自転車のすばしっこさが共存したようなドラムスは、“いよっ!大統領!”と大向こうから声をかけたくなるほどの名人芸です(※派手なことは一切やってません)。

“ LIVE ” / Lee Michaels 1973  まるで天から啓示を受けたかのごとく一心不乱にハモンドオルガンを弾きまくったライブアルバム。たった二人の演奏家で臨んだステージだが、そこいらのヘビーメタルバンドが束になっても敵わないほど圧倒的な演奏を繰り広げる

 

【第二章】レイドバックと桑田佳祐さん

唐突ですが、ボブログ音楽食堂をお読みの皆さんは “レイドバック(laid-back)” という言葉を遣ったことがあるでしょうか? 辞書を引くと→「のんきな/ゆったりとした/緊張していない」とあり、私はこの言葉を10代のころ聞いた桑田佳祐さんのラジオで初めて知りました。

ロックファンの間では「アメリカ南部の音楽のゆったりした感じ」を指す時によく遣われ、桑田さんはクラプトンがデラニー・ボニー&フレンズの面々と録音した1stソロアルバムを“それまでのクラプトンとは別人のようなレイドバックしたサウンドに驚いた”と言ったのを憶えています。ちなみにサザンの「わすれじのレイドバック」は、シングルのみで発売された曲でアルバムには未収録です!

第二章でみなさんにご紹介したいのは Teegarden & Van Winkle(ティーガーデン&ヴァン・ウィンクル )。オルガン+ドラムスのふたり疑似トリオで、南部臭ぷんぷんのレイドバックなハモンドアルバムを2枚世に送り出しました。私は先記のリー・マイケルズ氏の鬼気迫るハモンドオルガンを聴く度に “かっきー!” と身悶えしますが、まるで慌てることを拒んでいるかのようなTeegarden & Van Winkleの作品を聴くと、頭の後ろで手を組んで “んー、いいねー” と呟きながらソファに寝転びたくなります。

“an evening at home with Teegarden & Van Winkle” / Teegarden & Van Winkle 1968  コンサートの実況録音盤で“地味な傑作”の好例。レイドバックを体現したかのようなその音楽/演奏は「引き算の美学」が見事だ

 

オルガンのSkip “Van Winkle” Knape(スキップ・ヴァン・ウィンクル・ナペ)氏と、ドラムスのDavid Teegarden(デヴィッド・ティガーデン)氏。オクラホマ州タルサでユニットを結成したふたりは疑似トリオとして活動を続けながら、アメリカンロックの勇者:ボブ・シーガーのレコーディングやツアーに参加し、後にディーガーデン氏はBob Seger & The Silver Bullet Bandの正式なドラマーとして4枚のアルバムに参加しました。

ふたり疑似トリオとしての活動は3年間ほどで、以降は1997年に再結成アルバムを一枚録音したに留りました。あまりに地味なアルバムだからでしょうか、音楽評論家の先生が彼らのことを取り上げた記事を見たことがないのですが、今回紹介した2枚のハモンドアルバムは「芳醇(ほうじゅん)」という言葉がピッタリな大人のロック音楽であります(※お若い方も大歓迎!)。

“ But Anyhow, ” / Teegarden & Van Winkle 1969 録音年が先記のリー・マイケルズ氏とダダ被りなのはただの偶然なのだろうか?田舎道を低速で流す車のようにのんびりと、下手っぴぃなボーカルと相まって堅気のロックファンをもニヤりとさせること必至の南部ロックが堪能できる

【第三章】映画には出てこなかったレイ・チャールズ氏の履歴

レイ・チャールズ氏の伝記映画「レイ/Ray」は、ショービズ界の有名人ではなく“音楽家”としての姿を真正面から細部まで撮らえた名作だと思います。この映画を見た人がみなレイ氏のマニアを自称できるくらい音楽的に深堀されており、制作に係わった人たちの音楽への造詣の深さは、出版社の公式サイトに音楽ブログにを投稿している愚者の襟を正させるのであります。

さて先日、黒人音楽ファンが集う某Soul Barへ飲みに行った時のこと。店主とレイ氏のレコードの話になった際に「そんなアルバムあったっけ?」と訝(いぶか)しがられたのが、これから紹介する ” GENIUS+SOUL=JAZZ ” (ジニアス・プラス・ソウル・イコール・ジャズ)です。

” GENIUS+SOUL=JAZZ ” / Ray Charles 1960  録音当時向かうところ敵なしのR&Bの皇帝が、リズムギターのフレディー・グリーンを始めカウント・ベイシー楽団をほぼそのまんま従えて痛快な演奏を繰り広げた(意外と知られていない)名作。このアルバムで聴けるハモンドの音色が「ほぼ単一」なのは、音のバリエーションを創成するためには演奏しながらたくさんのレバーやスイッチを「目視」で操作しなければならない故と推察。歌・演奏とも「彼のみ」に備わった独特のタイム感が白眉で、21世紀になって20年経った現在も類似した例は存在しない

 

Atlantic Recordsで大スターとなり、破格の契約金でABC Paramountに移籍して間もない1960年、レイ氏は “俺のハモンドオルガンとジャズのビッグバンドでレコードを作りたい!” と切望します。そして彼が編曲者として白羽の矢を立てたのが、プロになるためシアトルへ出てきた1947年以来の盟友:クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)氏。私の世代にはマイこー・ジャクソン氏の ” Off The Wall ”のプロデューサーとして知られていますが、元はカウント・ベイシー楽団に所属していた名トランペット奏者。肺を傷めたのを機に演奏は断念しましたが、運命のイタズラかその突出した音楽的才能と技巧は「編曲者」に転身してから一気に開花/昇華して現在に至るのであります。

レイ氏のハモンドアルバムは12月26日にクインシー氏の編曲で6曲、翌27日に才人ラルフ・バーンズ(Ralph Burns)氏の編曲で4曲の「計10曲」録音されましたが、”レイはここでこう弾くだろうから」と予測したかのようなクインシー氏の編曲は、「やっぱあんたは凄いわ」と拝みたくなる名仕事だと思います。

【第四章】物価とT.ジョーンズ

私的な話で恐縮ですが…私が音楽愛好家として知識と見分を広げるのにもの凄~くお世話になったのが佐野元春氏と山下達郎氏であります。もし…NHK-FMの月-金22:00から放送されていた音楽番組「サウンドストリート」を聴いていなかったら、きっと楽しみの少ない人生を送っていただろう…とガチで思います。特に達郎氏の守備範囲の広さと造詣の深さは筆舌に尽くし難く、氏の番組を毎週一回50分聴き続けているだけで、我々リスナーは莫大な音楽知識の恩恵に与ることが出来たのです。

そこでハモンドアルバム特集の最終章は、達郎氏のfavoriteハモンドアルバムで締め括りたいと思います。アーティストは Booker T. & The M.G.’s(ブッカー・ティー・アンド・ザ・エムジーズ)で、アルバムは ” Melting Pot(メルテイング・ポット)” であります。

“ Melting Pot ” / Booker T. & The M.G.’s 1971  彼らがSTAXレーベルを去る直前の録音で彼らの最大のヒットアルバムとなった。元来Booker T. Jones氏のハモンドオルガンを主語にしたR&Bコンボだが、達郎氏が「自分のギターの手本」と公言するスティーブ・クロッパー氏の最高レベルのリズムギターが冴え渡るアルバムだ

 

「えー?ブッカー・ティーもM.G.’sもしらなーい」という貴方も、音楽映画「ブルース・ブラザーズ」を観たことがあったら既に半分知っているようなものです。なぜならギターのスティーブ・クロッパー(Steve Cropper)氏とベースのドナルド・ダック・ダン(Donald “Duck” Dunn)氏は、ジョン・ベルーシ=Jake Bluesとダン・アークロイド=Elwood Bluesが劇中で結成したブルース・ブラザーズ・バンドのメンバーとして登場していたからです。

Booker T. & The M.G.’sは先記の二人と、オルガン&ピアノのブッカー・ティー・ジョーンズ(Booker T. Jones)氏 +ドラムスのアル・ジャクソン・ジュニア(Al Jackson Jr.)氏の四人組R&Bコンボですが、1stアルバム ”Green Onion” と2ndアルバム ”Soul Dressing” の制作時のベースは ルーイー・スタインバーグ(Lewie Steinberg)氏でした。

彼らが所属していた STAX / VOLT(スタックス/ヴォルト 後にAtlantic Recordsに吸収される)は、米国R&B /サザンソウルの正に「辞典」のようなレコードレーベルで、ストーンズやビートルズの面々はもちろんロック畑のアーティスト達はこぞってここのレコードを聴き漁り多大な影響を受けたのであります。しかも彼らはSTAX / VOLTのハウスバンド的存在でしたので、オーティス・レディング氏レコードのほぼ全てで演奏しています。

また彼らは独立したスモール・コンボとしても多くのアルバムを録音し、達郎氏がオールタイム・フェイバリットと公言するMelting Potは、一曲目から身を乗り出したくなるほどのドライブ感が味わえる秀作です。

最後に、M.G.’sの音楽が大好きだった日本のロックシンガーが、彼らをメンフィスに訪ねて一緒にレコードを作りその後彼らを日本に招聘してライブまで行いました。STAX / VOLTのサザン・ソウルが遠い東の日出づる国に残した子孫は、故:忌野清志郎氏でした

ORIGINAL ALBUM SERIES / Booker T. & The M.G.’s  初期-中期の5アルバム“Green Onions 1962” “Soul Dressing 1965” “And Now! 1966” “HIP HUG-HER 1967” “Doin’ Our Thing 1968” が一気に聴けるボックス・セット。Rhinoのリイシュー企画には欠かせない音の魔術師Bill Inglot氏の秀逸なデジタルリマスターで最高音質のM.G.’sが堪能できる。ハモンドオルガンを中心に据えた希有のR&Bコンボの「音の洪水」を浴びるにはもってこいの企画だ

ボブログ音楽食堂「バックナンバー」のご案内。 毎月「5日」に新規投稿しまーす!

Vol.1「心が洗われるような、いい音楽ありませんか?」は→コチラ から!

Vol.2「踊るROCKに観るROCK、ちょっぴり大人のAOR」は→コチラ から!

Vol.3「アラ40/アラ50のお手本としてアニーとクリッシーを拝むべし!」は→コチラ から!

Vol.4「アラ40アラ50にオススメしたい! 69歳の女性ロック・シンガー、クリッシー・ハインドの傑作スタンダード集」は→コチラ から!

Vol.5「おうちにいてもワイハでアロハ!!の巻」は→コチラ から!

Vol.6「違いの分かる女が斬る! J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲のあれこれ!」は→コチラ から!

Vol.7 「笑い転げて腸捻転!?世界の珍盤/奇盤/迷盤特集」は → コチラ から!

Vol.8 「唸るオルガン!その名はハモンド!」は → コチラ から!

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AUTHOR /easyman

ビートルズが来日した年の生まれ。美容師・介護士の免許と実務経験があり、座右の銘は“髪(かみ)のケアから下(しも)のケアまで”。某美容メーカーの教育部門に19年間勤務し、なぜかプロ音楽家との演奏経験あり。一人しかいないのにナンバーワン営業マンと呼ばれる髪書房の特攻隊長。

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