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ウィッグでつくる 行政・医療と患者をつなぐ架け橋

 

「アピアランスケア」という言葉をご存知だろうか。

医学的・整容的・社会的支援を用いて、外見の変化を補完し、外的変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケアのことを指す。

例えば、抗がん剤治療などによって髪の毛が抜けてしまうことによる心理的な苦しみを緩和させるケアのことなどだ。

 

30代・健康診断はほぼAという編集にとってはなかなか耳なじみのない言葉。しかし、今や日本人の2人に1人は一生のうち一度はがんに罹患するという時代。がんサバイバーの方が社会復帰し、元気に働いている姿も珍しくない今だからこそ、「がん」は非常に身近な存在となっているのだ。

 

そんな身近ながんに「アピアランスケア」の一環である医療ウィッグのサポートを行っている「全国病院ヘアサロン協会」という団体がある。

同団体の代表・小谷和也(こたにかずや)さんと、がん患者や家族のサポート・講演活動などを行う「医療と暮らしを考える会」理事長・宮本直治(みやもとなおじ)さんが中心となり、昨年から「抗がん剤による脱毛を前に理美容師ができること」という講習会を開催。

 

「ただウィッグのサポートだけをすればいいわけではないんです」と語るのは宮本さん。

患者にどんな心もようの変化や体の変化が起こり、どんな言葉が傷つけてしまうのか。当事者やその家族にならないと見えないこと、わからないことは実はたくさんあるのだ。

 

ウィッグのサポートを通じて真に伝えたいこととは? 小谷さん、宮本さんにお話を伺った。

 

 

医療と患者の間に「美容」のアクセスがない

 

ボブてれくん
ボブてれくん
小谷さんが「医療ウィッグ」についての取り組みを始められたきっかけはなんですか?

 

都内で理容師として修行をし、2008年に地元の兵庫県西宮市に戻りました。

その後、訪問理容師として仕事をしていた時にたまたま祖母が入院。兵庫県立西宮病院に入院したのですが、病院内にあった理容室が後継者がおらずクローズしようとしていたんです。タイミング的に、「僕が継ぐしかない」と直感的に感じました。今は「アピアランスサロン」の代表・理容師として、がん患者だけでも月20〜30名の患者さんに関わっています。

小谷さん
小谷さん
まさに運命的な出会いだったんですね!
そうなんです。

日々の営業の中で感じたのは、「患者さんとウィッグをつなぐ接点がない」という点でした。

抗がん剤が始まるという事実だけでも辛いのに、短い準備期間で高額なウィッグの準備をしなければならないのが現状です。

 

実は僕たちは自治体に10年前から働きかけていて、兵庫県では医療ウィッグへの助成金が出るようになったのです。
ですが、がん患者さん側もそういう助成金があることを知らないことが圧倒的に多いですし、医療側もウィッグについては専門外になってしまうので案内も難しい。

せっかく医療の進歩や行政の取り組みが進んでいても、「どのサロンでやればいいのかわからない」という点でつまづいてしまうのです。

小谷さん
小谷さん
ボブてれくん
ボブてれくん
10年も行政に働きかけてこられた結果が身を結んだのに、利用者が少なければまたその助成金も削減されてしまうかもしれないですよね。

そこで医療と患者さんとの間をつなぐ医療ウィッグという存在が生まれたわけですね。

 

そうなんです。

患者さんのウィッグを整えて似合わせていって、それを初めてご自身やご家族がご覧になった時の笑顔というのは、いつも心が動く瞬間です。

その一方、僕一人だけではサポートできる数に限りがある。もっともっと多くの方に知っていただきたいと思って始めたのが、美容師・理容師に向けた「アピアランスケアセミナー」です。

 

「ウィッグの切り方」のような方法論をお伝えするのはセミナーのほんの一部でしかありません。

主にお伝えするのは、

「髪の毛が抜けていく過程」を看護師さんにお話いただいたり、行政の担当者には助成金についてのことだったりなど、今までの背景かこれからの課題についてどう取り組んでいくかというウィッグにまつわる全方位の事柄です。

切り方やに合わせ方だけ知っているからと言って、「やってあげる」という上からの目線になってしまっては、それは活動の主旨とは相反します。まず、「知らないことを知る」という活動がこのセミナーの一環です。

 

ボブてれくん
ボブてれくん
確かに、すぐ「技術」を知りたいと思いがちですが、複雑なお気持ちを抱えている状況で、できることには限りがありますよね。まずは自分にできることってなんだろう?と考えるきっかけにしてもらうことが大切ですよね。

 

孤立させないために、美容の仕事ができること

 

ボブてれくん
ボブてれくん
宮本さんはアピアランスケアセミナー立ち上げからサポートもされており、ご自身もがんサバイバーとしてがん患者グループ「ゆずりは」の代表や一般社団法人「医療と暮らしを考える会」の理事長もおつとめですよね。

これまでの活動の中で、医療ウィッグを含めたアピアランスケアという存在についてはどんな風に考えていますか?

 

以前はがんになれば長期で入院していました。ですが、医療の進歩が進んだのと、行政の仕組みの変化などに伴って、今では通院でがんの治療もできるようになってきたんです。

客観的に見たらいいことと思われがちですが、患者同士などで以前は形成されていた「思いを話せる場」がなくなってきて患者の孤立が進んできているように感じます。特にコロナ禍で孤立化の流れは進んだと思いますね。

医療者でも、家族でもない第三者的な存在になりうる人が生活の場に必要です。その一役を、美容師や理容師さんにも担っていただきたいと思っています。

医者や家族には心配かけたりするから患者からは言いづらい、というケースはよくあること。心の声を聞ける・話せる場所を育てていくことが、これから大切になっていくと思います。

宮本さん
宮本さん
ボブてれくん
ボブてれくん
なるほど…医療の進化の話も知らないことだらけなので驚きました!

 

宮本さん
宮本さん
自分の身の回りでがんになって入院・通院などを経験された方がいなければ、知るきっかけがないのも確かです。

ですが、僕は僧侶だから言えることなのですが、
「人は必ず死ぬ」んです。
いつどうなるのかわからない。

人生の中で一人ひとりの「持ち前」を生かしながら、できる範囲の中でちょっとお隣さんに手を差し伸べる、そんな意識を持てたら少しずつでも変わっていくんじゃないかと思っています。

このアピアランスケアという概念も、医療的な治療とは異なりますが、誰もが老いていく中で通っていく道だと思うのです。

こういった取り組みを通して、自分の人生を見つめていただけるきっかけになればな、と思っています。

 

ボブてれくん
ボブてれくん
誰しもがかかる可能性のある病気。
ウィッグというのは単なるツールですが、それを介して心のやりとりが重ねられる社会になっていくことを切に願っています。

小谷さん、宮本さん、ありがとうございました!

 

1月23日にアピアランスケアセミナーが開催されます!

オンラインでも受講できる、アピアランスケアセミナーの第3回が1月23日に開催されます。

メールでのお申し込みは下記から!

info@appearance-salon.com

 

小谷さん
小谷さん
「ウイッグを使ってどう自分らしく生きるのか」を共に考え、伴走し、「地域の頼りとなる美容師」をめざすための患者の心を学ぶセミナーです。
ぜひ、ご参加お待ちしております!

 

 

 

 

かが

AUTHOR /かが

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