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クリスマスの隠れた名曲 クリス・レアの巻 ボブログ音楽食堂Vol.13

–序章-

情報社会に埋もれてしまった名曲/名盤(迷盤!?)のホコリを払って美容師のみなさまに紹介する「ボブログ音楽食堂」。

 

Vol.13のテーマは、年に一度世界中がそのムード一色に染まる大イベント「クリスマス」。アルバムの中にひっそりと収録されていたり、メディアに取り上げられることが少ないクリスマス・ソングの「隠れた名曲」にスポットを当てます。今回登場するのはクリス・レア。幾つかの偶然が重って出来上がるも、お蔵入りになっていた曲をレコード会社がシングルのB面に埋めて発売したらヒットしたのだとか!?

 

 

[第一章] 家路へ向かうクリスマス

 

英国のギタリスト~シンガー・ソングライターのクリス・レア(Chris Rea)氏が1986年に発売した12インチシングル:Hello FriendのB面にひっそりと収録されていたのが、今回ご紹介する「ドライビング・ホーム・フォー・クリスマス/Driving Home For Christmasです。

 

大雪で交通自渋滞に巻き込まれのろのろと家路を進みながら、家族の顔と家で過ごすクリスマスに思いを馳せる主人公の幸福なひとときが手に取るように伝わってくるクリスマス・ソングの隠れた名曲です。

 

当時美容師2年目だったeasymanが毎月レコード漁りに通った渋谷宇田川町の「シスコ」で、入荷したての新譜紹介でかかっていたのを偶然耳にし、穏やかで慈しみ溢れる曲にその場でロック・オン。もう一度かけて貰えませんかと懇願して以来30数年間、季節問わずの年中無休で聴き続けている曲です。

 

12 inch single “Hello Friend”+“Driving Home For Christmas”/ Chris Rea(1986) これが初出の12インチレコードのジャケット。後に発売された再録バージョンがまったく同じ編曲なのに味気なく聴こえるのは音楽の化学反応の摩訶不思議だ。

 

 

 

 

[第二章]  クリスのレア(=貴重)なクリスマス・ストーリー!?

 

クリス・レア。英国イングランド北東部のミドルズブラ出身のギタリスト~シンガー・ソングライターです。日本では1987年発売のマツダ・エチュードのCM曲に「ON THE BEACH / オン・ザ・ビーチ」が起用されて一時人気となりましたが、easymanが初めてレア氏を知ったのはNHKが不定期に放映していた外国ミュージシャンのライブ番組「ヤング・ミュージック・ショー」。それは英国のロック・バンド:スモール・フェイセズ(Small Faces)のベーシスト:ロニー・レイン(Ronnie Lane)の難病治療の資金を調達すべく、英国の有名ミュージシャンたちが設立した基金「Ronnie Lane ARMS / ロニー・レイン・アームズ」のチャリティ・コンサートでした。

 

ストーンズのビル・ワイマンとチャーリー・ワッツを主に、ジミー・ペイジ、エリック・クラプトン、ジェフ・ベックやスティーヴ・ウィンウッドほか英国ロック界の総合カタログのような面々が、それぞれのレコード契約をすり抜けるためにWillie & The Poor Boys(ウィーリー・アンド・ザ・プア・ボーイズ)なる架空のバンドを結成し、これまた治療資金のためのチャリティー・アルバム「The Pooe Boy Boogie / ザ・プア・ボーイ・ブギ」を録音し発売したのでした。

 

 

“The Poor Boy Boogie”/ Willie & The Poor Boys(1985)もしこのレコーディングの最中にスタジオに爆弾が落ちていたら英国ロック界は完全に消滅しただろうと思われるほどの面々が、自ら手を挙げて参加したロニー・レインの難病支援のためのチャリティー・アルバム。先記のクリス・レア氏が唄った古いBlues曲“Baby Please Don’t Go”では、アナコンダのようにぶっといビル・ワイマン氏のベースと故チャーリー・ワッツ氏の見事なブラシワークも堪能できる。

 

 

 

 

 

[最終章] 二匹目のどじょう !?

 

話題をレア氏のドライビング・ホーム・フォー・クリスマスに戻します。実はこの曲、1986年に録音されたオリジナル・バージョンは一度だけ日本でCD化されるもすぐにカタログから外され、その後流通したレア氏のベスト・アルバムや色々なアーティストを集めたクリスマス・アルバムに収録されているのはオルジナル・バージョンではありません。レーベルの移籍やレコード会社の買収で生じた権利関係をクリアするため新たに録音し直した二匹目のどじょう=つまり「再録バージョン」です。これは英米に限らず日本の音楽業界でもよくある話で、「あー、あの曲聴きたいなー」と買ってみたらそれが再録バージョンで、歌も演奏も時には編曲までもがオリジナル・バージョンと違っていて愕然とすることがあります。

 

ところがこのドライビング・ホーム・フォー・クリスマスのオリジナル・バージョン、レア氏の名を世界に知らしめた1986年の大ヒットアルバムON THE BEACH/オン・サ・ビーチ」が30年を経た2019年に、記念盤=デラックス・エディションとして再発された際のボーナス・ディスクにめでたく復活収録され、クリスマス・ソングの隠れた名曲がやっと容易に聴けるようになったのであります。

 

 

ON THE BEACH~Delux Ediion / Chris Rea(2019 Reissue)アルバム制作中に偶発的に録音されたDriving Home For Christmasのオリジナル・バージョンを追加収録。静かな佇まいの作風は英国産A.O.R.の名盤としても高い人気を誇り、世界中のクリス・レア・ファンが長年リマスター再発を心待ちにしていた。名曲ON THE BEACHの03:36 – 03:43 間でマックス・ミドルトン氏がフェンダー・ローズ(=エレピ)で偶然弾いたメロディーの断片が曲を象徴する決定的フレーズとなり、後の再録バージョンではメイン・リフに格上されてイントロからエンディングまで繰り返しくりかえし演奏された。

 

 

 

最後に、この曲にまつわるレア氏本人の正にレアな談話が解説書に載っていたので要約します。

「ある日酔っぱらって妻に車で迎えに来て貰ったことがあった。かなりの雪が降り続いてノッティンガム辺りでついに動けなくなり、除雪車が来るまで二人で待つことになった。その間僕は、気分を揚げるために歌詞の断片をいくつか書き留めた。

 

ON THE BEACHのアルバムを録音し始めた時、キーボード・メーカーのローランドの人が新しいデジタル・ピアノを2台、スタジオに持ってきた。早速マックス・ミドルトン[*]と僕で試していたら、ふとホルスト・ヤンコフスキーの「森を歩こう」の一部を思い出しリフで弾き始めた。その流れにあの雪の日のドライブで書いた歌詞を加えていったら自然とDriving Home For Christmasが出来上がった。でも僕たちは新しいキーボードを試し弾きしていただけで、曲を作ろうとした訳じゃなかったからそのテープはお蔵入りにした。

 

ある時レコード会社の誰かがそれを引っ張り出してシングルのB面にくっつけて発売したら、A面のHello Friendじゃなく裏面のDriving Home For Christmasを気に入ったDJたちがラジオでかけ始めた。この曲は当時の僕の音楽とまったく違うサウンドだったから、宣伝活動は一切やらなかったのにヒット・シンングルになったんだ(クリス・レア氏の談話より抜粋)。」

 

*マックス・ミドルトン……英国の名キーボード奏者。ロックン・ロールとJAZZのセンスを絶妙なバランスで併せ持つ稀有なミュージシャンで、ジェフ・ベック(Jeff Beck)1971年の大傑作ソロ「ワイアード / Wired」から第二期ジェフ・ベック・グループのアルバムで聴ける、いぶし銀のプレイに70年代初期のロック小僧たちは悶絶していた。

 

ボブログ音楽食堂、次回のVol.14もクリスマスの隠れた名曲をご紹介する予定!

 

ボブログ音楽食堂「バックナンバー」のご案内! 

Vol.1「心が洗われるような、いい音楽ありませんか?」は→コチラ

Vol.2「踊るROCKに観るROCK、ちょっぴり大人のAOR」は→コチラ

Vol.3「アラ40/アラ50のお手本としてアニーとクリッシーを拝むべし!」は→コチラ

Vol.4「アラ40アラ50にオススメしたい! 69歳の女性ロック・シンガー、クリッシー・ハインドの傑作スタンダード集」は→コチラ

Vol.5「おうちにいてもワイハでアロハ!!の巻」は→コチラ

Vol.6「違いの分かる女が斬る! J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲のあれこれ!」は→コチラ

Vol.7 「笑い転げて腸捻転!?世界の珍盤/奇盤/迷盤特集」は → コチラ

Vol.8 「唸るオルガン!その名はハモンド!」は → コチラ

Vol.9 「怒涛のハモンドオルガン特集 其の弐」は → コチラ

Vol.10「ビートルズ豪雨後の筍を狩る! 其の壱」は→ コチラ

Vol.11「ビートルズ豪雨後の筍を狩る! 其の弐」は→ コチラ

Vol.12  歌「だけ。」=ア・カペラ は→ コチラ

easyman

AUTHOR /easyman

ビートルズが来日した年の生まれ。美容師・介護士の免許と実務経験があり、座右の銘は“髪(かみ)のケアから下(しも)のケアまで”。某美容メーカーの教育部門に19年間勤務し、なぜかプロ音楽家との演奏経験あり。一人しかいないのにナンバーワン営業マンと呼ばれる髪書房の特攻隊長。

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