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歌「だけ。」の芸術!ア・カペラ ボブログ音楽食堂 Vol.12

序章-

情報社会に埋もれてしまった名曲/名盤(迷盤!?)のホコリを払って美容師のみなさまに紹介する「ボブログ音楽食堂」。

 

Vol.12のテーマはズバリ→「だけ。」今回は完全無伴奏のボーカル音楽=ア・カペラ(A Capella)のエベレスト頂上級のグループが登場。シンプルの極みでありながら大編成のオーケストラにも引けをとらない驚異の存在感!人の声だけで織りなす音楽に赤ちゃんの夜泣きもぴたっと止まる!?

 

 

[第一章] 限界知らずの歌手四人組

 

その名も「ザ・シンガーズ・アンリミテッド / The Singers Unlimited 」 。女性1人男性3人のボーカルグループで、1967年の結成から1981年の最終作品まで、その活動はスタジオ内でのレコーディング「だけ」。ステージでの実演は一切行わない[*]という、米エンターテイメント業界では珍しい完全インドアタイプの職人ボーカルグループです。

 

今回ご紹介するのは、彼ら4人の声だけで吹き込んだア・カペラ・アルバム「A CAPELLA」。親しみ易さと孤高の美しさを同時に感じるアルバムで、私の知人や音楽仲間の間では “子供の夜泣きがぴたっと止まる” “入眠剤よりも効果てき面” “ヒステリ起こした嫁が柔和になる” など至極便利なBGMとしても愛聴されております。(*YouTubeを検索して観れる彼らの動画は、録音済みの曲に合わせてリップシンク=口パクのなんちゃってライブです)

 

“A CAPELLA”/ The Singers Unlimited (1971)  4人並んでマイクに向かい超人的なハーモニーを一発録りで決める。さらにそれぞれが異なるパートを歌い重ねて完成させた作品はア・カペラ音楽の概念を根底から覆す。

 

 

[第二章] ヒロトとマーシー、おらんのかいな?

 

シンガーズ・アンリミテッドのメンバーは紅一点のボニー・ハーマン(Bonnie Herman)とレン・ドレスラー(Len Dressler)、そして元:The Hi-Lo’s / ハイ・ローズのドン・シェルトン(Don Shelton)とジーン・ピュアリング(Gene Pueling)。

 

このハイ・ローズは1953年に結成された4人組男性ボーカルグループで、かのビーチ・ボーイズが師と仰いだフォー・フレッシュメンをもっと複雑かつ緻密にしたようなボイシングをさらりと歌い上げていました。先記のピュアリング氏はハイ・ローズ時代から複雑かつ緻密なボーカルハーモニーを書き上げる才人でもあります。

 

“Listen!”/ The Hi-Lo’s (1955) ハーモニーの精度の高さと親しみ易さのバランスが絶妙な男性4パートのボーカルグループ。このアルバムは、トレイシー・ソーン&ベン・ワットのEBTG(everythig but the girl)が初期に所属していた英チェリーレッド(CHERRY RED RECORDS)のサブレーベル=el(エル)から2006年に再発された

 

 

[第三章] 世界一のジャズピアニストが惚れ込んでデビュー

 

シンガーズ・アンリミテッドのキャリアは、TVやラジオなどコマーシャルジングルの録音がその始まり。生のステージに立たない彼らのハーモニーが世界一のジャズピアニスト:オスカー・ピーターソン氏の耳に届いたのも、歌手や奏者の個性の主張が許されないたった数十秒のCM音楽から滲み出た彼らの音楽性ゆえと推察。早速ピーターソン氏は所属していた独MPSレコードに彼らを紹介し、氏のトリオを伴奏に録音した1stアルバム In Tune(イン・チューン)で1971年にメジャーデビューします。

 

”In Tune” / The Singers Unlimited(1971)ジャズ界最高峰のピアニストが惚れ込み自ら伴奏を申し出た1st。完全無欠の美しいハーモニーでありながらピーターソン氏のピアノに一歩も引けをとらないスイング感で全編ぶっちぎる。曲中にあえて伴奏を控えて四人の声だけで聴かせる箇所もあり、氷のような冷やかさと平熱よりちょっと高めの体温を同時に感じさせる希有のボーカルアルバム。独MPSレーベル特有の録音の良さも貢献度大だ。

 

 

 

[第四章] ピッチ合ってりゃいいってか!?

 

さて本題の「だけ。」に戻りますが、ア・カペラ音楽を語る時よく論じられるのが「ピッチ=音程の正確」さです。これはボーカルグループの素質と力量を採点する基準になりがちですが、すご~く巧いのにぜんぜん面白くないア・カペラ作品が多く排出される要因でもあります。

 

かつて『めちゃイケ』(フジテレビ系列)のオファーシリーズで歌舞伎界のプリンス市川海老蔵氏が “巧いけど面白くない芝居より、下手でも演者の匂いと色艶を感じる方がいい”と岡村隆史氏に説くのを観たことがありますが、「超絶技巧」と「親しみ易さ」そして「超個性」を兼ね備えたシンガーズ・アンリミテッドの音楽は芸術性と庶民性の双方で高得点。人の声「だけ。」で生成されるア・カペラ音楽において、純度100%の金塊的存在なのだと聴く度に思わされます。

 

“The Complete A Capella Sessions”/ The Singers Unlimited 彼らのア・カペラ3部作(A Capella、同Ⅱ、同Ⅲ)を米Universal Musicが2006年に集大成した2CD(※但し1972年のア・カペラ・アルバム「Christmas」は含まず)

 

 

[第五章] バッハも真っ青のクリスマス音楽!?

 

シンガーズ・アンリミテッドは生涯に4枚のア・カペラ・アルバムを吹き込みましたが、その中の1枚が1972年録音の「Christmas / クリスマス」です。アルバム中ポピュラー曲はジュディ・ガーランド / Judy Garlandが映画『Meet Me In St.Louis(邦題:若葉の頃/1944年)』 の中で歌ったHave Yourself A Merry Little Christmasだけ。

 

宗教色が濃い伝承曲が大半を占めていますが、お説教臭さは皆無。教会の荘厳な大聖堂と、暖炉を囲む家族・友人の顔が同時に見えるような至福のア・カペラ音楽がぎっしり詰まっています。アルバムの表題や収録曲には期間限定の感がありますが、その音楽的内容は季節不問。ふと気づけばエアコンのごとく、年がら年中稼働しているのであります。

 

 

“Christmas”/ The Singers Unlimited(1972) 四人の歌手が声だけで創り上げた17曲は、表題がクリスマスでなくても神がかって聴こえること必至。ボーカル音楽、特にア・カペラを嗜む者にはまさに「聖書」のようなアルバム

 

 

ミニマル(最小限)でマキシマム(最大値)な音楽作品をご紹介する「だけ。」シリーズ! 今後も続きをやりまーす!

 

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AUTHOR /easyman

ビートルズが来日した年の生まれ。美容師・介護士の免許と実務経験があり、座右の銘は“髪(かみ)のケアから下(しも)のケアまで”。某美容メーカーの教育部門に19年間勤務し、なぜかプロ音楽家との演奏経験あり。一人しかいないのにナンバーワン営業マンと呼ばれる髪書房の特攻隊長。

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