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僕が帰らないと着物文化が危ない…!→会社が支援するよ!急成長サロンから生まれた“ソーシャルグッドな着物&飲食“の新業態

昨今、サステナブル経営やSDGsといったキーワードを経営誌だけでなくファッション誌やSNSなどでも頻繁に目にするようになり、幅広い層が環境・地域・社会に“良い“こと(ソーシャルグッド)を消費の判断基準にするようになりました。

美容室経営者の間でも少しずつ浸透している考え方ではありますが、一方でいまだにサステナブルやSDGsというとヴィーガン志向や脱プラスチックの取り組みなどの地球環境へのアプローチの面のみをイメージする人も多いのではないでしょうか? ですが、それはさまざまな社会問題の1つの面に過ぎません。

今回は、美容室企業の中でも先進的なCSR事業を推進しているLondが、グループ事業の巧流合同会社より6月15日にオープンした初の飲食事業を通して“美容室だからできるサステナブル事業“のあり方を探ります。

急成長美容室がなぜ“着物×飲食“⁉︎ 従業員第一主義とCSRの本質的精神

小社髪書房からもマンガ サロン経営革命物語を上梓し、急成長を遂げるLond。そのグループ会社である「巧流(こうる)株式会社」から、オープンしたのは「着物×カフェバー」という新しい業態です。そんな新しい業態に乗り出した背景は、こんな感じ↓

Lond著『マンガ サロン経営革命物語』より。代表の1人・石田さんはCSR担当でCSR検定1級を保持するなど、美容業外でも一目置かれるサステナビリティの第一人者だ。

つまり、Lond在籍の社員の「家業」を守るために、合同会社という新しい形でビジネスを共にし、着物業界を支援することになったのでした。

巧流株式会社の代表は和裁士の元山巧大[コウダイ]さんと美容師の元山誠也[セイヤ]さん兄弟。Lond本体と共同出資で2019年に設立。オープン当初は着物サロンという形で着物や和裁小物などの販売やレンタル事業を行っていたが、2021年に着物サロンをクローズし、飲食事業「cafe & bar call[コール]」として再スタートしました。

「従業員の家族や人生」と「日本の伝統技術の保全」という“多方よし“の精神は、同社のサステナブル経営のビジョンを体現した新事業なのです。

和裁士の巧大さん(写真左)と美容師の誠也さん(右)。

 

実家は着物縫製会社兼和裁士訓練校を経営…“倒産“を目の当たりにした元山兄弟は立ち上がった

ーー元々弟の誠也さんがLondで美容師として勤務していたことから、Londから事業を展開することになったんですよね。兄の巧大さんはどのような経緯で和裁士になったのですか? お父さまのご希望などがあったのでしょうか。

巧大さん
巧大さん
いえ、父の方から言われたことはありませんでしたね。高校卒業に際して、大学で経営学を学ぶか和裁の修行をするかどちらにしようと思った時、初めて父に相談しました。元々どちらかというと職人気質なのは誠也の方で、僕は人と関わることが好きだったので。すると父が「継いでくれたら嬉しい」と言ってくれたので、香川県で和裁の修行を始めました。

ーー誠也さんの方が職人気質なんですね。誠也さんはどうして美容師に?

僕は早くから美容師になりたいと思っていましたね。小学生の頃からスポーツなどを通して競争に燃えるタイプだったので、インセンティブ系の仕事をしたい思っていました。着物は小さい頃から身近だったので、自分のお店を持ったら着物カルチャーを取り入れてやってみたいというイメージは漠然とありましたが、こんなに早く、しかもLondの一員としてやるとは思ってもみなかったですね。
誠也さん
誠也さん

ーー2人で着物事業をやろうと思ったきっかけや経緯を教えてください。

巧大さん
巧大さん
最初のきっかけは実家の和装学院が閉校したことです。僕が修行先から帰って父の会社に入ってまもない頃だったのですが、その時一度規模を縮小して和裁の会社を立ち上げたんですよ。そこから1年で、父が自分の代で終わりにすると。着物文化の衰退に伴い、和裁業という下請け企業に明るい未来はないと考え、僕は業界を離れるようにと言われ、僕は自動車ディーラーの営業マンに転身しました。
僕も意識が強く動いたのはその時です。父の代で会社を畳み、兄も業界を離れる……。このままじゃ和裁がダメになる、下請け企業の危機は着物業界そのものの危機ですし、着物文化がなくなってしまう!と強烈に危機感を覚えました。縮小していく業界の流れを変えるにはまず販売を改革しなければと思い、兄に「一緒に着物のブランドを立ち上げよう」と誘いました。
誠也さん
誠也さん
巧大さん
巧大さん
誠也は前の会社に入社したばかりくらいだったよね。僕も自動車ディーラーの営業に転身したばかりだったので、結果を出したいという思いが強く、とりあえず「3年待って」と言いました。新橋の居酒屋でめっちゃ煽られた記憶がある(笑)。
そんな人生で終わっていいと?くらいのことを言ったよね(笑)。
誠也さん
誠也さん

ーーアツい兄弟! 誠也さんに背中を押される形で2人が着物ブランドをもつという目標を持つわけですね。

巧大さん
巧大さん
自動車営業の仕事も元々やってみたいことの1つではあって、やるなら結果を出してから挑戦したいという思いがあったので、入社3年目で九州1位の営業成績を取った後に退職して東京に出てきました。
とはいえ、出てきてもらって10年くらいは準備をしようと思っていたんですよ。人脈を作ったり、ベンチマークをしたり、販売の勉強をしたり、資金調達も……やらなければならないことはたくさんあると思っていましたので。
兄が上京して1年くらい経った時、美容師を続ける意味があるのかな?と疑問を抱くようになって。IT知識を身につけるべきだと思ったんですよね。それで、Lond代表の1人でその時同じ店舗で勤務していた甲斐(紀行さん)に相談したところ、これまでの経緯を踏まえて代表会議にあげてくれたんです。そこで「素敵な事業だから、嫌じゃなければ支援するよ」と言ってもらえたことで、漠然と描いていたイメージにぐんと近づきました。
誠也さん
誠也さん
巧大さん
巧大さん
急展開やったよね。僕自身は社外の人間なのに「代表が話を聞きたいと言っている」と聞いてびっくりしました。
僕が入社する面接の段階で「店を持ちたい」「ゆくゆくは家業に絡めたい」と言っていたのを代表たちが覚えててくれていたんですよね。
誠也さん
誠也さん

「着物を売る」というハードルを痛感、そして“衣食住すべて“へフォーカス

撮影/加藤亮介(ここから以下すべて)

ーー2019年のオープン時は「着物サロン」という業態で運営していました。これを畳み、「着物カフェ&バー」という業態に変えたのはなぜですか?

巧大さん
巧大さん
オープンしてみて、着物を販売することの難しさを痛感しましたね。現代の生活様式では、着物は生活必需品ではなくプラスαの文化なので、興味はあってもハードルは高いなと。父の会社に一緒に勤めて、業界が縮小していくのをそばで見ていたのでわかっていたつもりでしたが、改めて厳しいなと。
完全予約制というのも難しさの1つだったなと思っています。「何かの先に着物がある」という環境を作らないと購買には至らないなと思いました。
そこで、飲食とのコラボはどうかなと。一度バーで間借りしてやってみたら、販売までの導線が非常に好感触を得られたんですよ。そういう経緯で、着物サロンから業態を変えようという判断になりました。
誠也さん
誠也さん

ーー実際に検証してみて今の形になったんですね。そのほかに「着物を買う」ことへのハードルを下げるためにどんなことを考えていますか?

巧大さん
巧大さん
コロナ禍でマスクが1万枚売れたことは大きなヒントになりました。勝算があってやったわけではなく、緊急事態宣言で見動きが取れない中で、マスクが足りないともいうし、和裁の技術を生かした商品ができるなと販売したのですが、これが当たりまして。
これをきっかけに「着物以外を売る」ということがイメージできるようになりました。
誠也さん
誠也さん
コロナをきっかけに、着物を売るということはライフスタイルをデザインすることなんだと気づいたんですよね。それまで、着物サロンという業態で、兄弟別々にどぶ板営業で会社を前に進めていたんですけど、今一度2人で「ライフスタイルをデザインするとはどういうことか?」を見つめ直すきっかけになりました。

▲飲食業は初めての2人だが、目的に必要な手段の1つとして果敢にチャレンジ。誠也さんはこのカフェ&バーで着物お茶会を開くべく、有楽流のお家元に師事。

▲飲食メニューは元山兄弟の地元・長崎県の家庭料理をラインナップ。ソーシャルグッドのビジョンから「ヴィーガンちゃんぽん」も!

店内で着物着用は無料 “体験“の創出で裾野を拓く

ーーそうして1階がカフェ&バー、2階が着物サロンという形ができあがったんですね。着物に触れられるタッチポイントをどのように創出しているか教えてください。

巧大さん
巧大さん
まずスタッフが全員着物を着用していますし、着物の店内レンタルは無料というサービスを提供しています。元々着物サロンの時から簡単に着られるお仕立てや洋服コーディネートを提唱していたのですが、そのハードルをさらに下げ、羽織る感覚で1〜2分で着られるアプローチにしました。もちろん購入を前提としたフィッティングもできます。

ーー面白いですね。着物は洋服と違って着ることそのものにカロリーが要る感じがしますが、食事を楽しむという目的の先に着物があるというのはこれまでにない接点な気がします。

着物に限らずアクセサリーや小物の販売という面でもいい導線だと思っています。着物業界の課題は販売ですが、着物そのものを売るハードルの前に、やはりブランドを知ってもらうことから始めなければなりません。飲食目的でも、そこでフラッと小物を購入することでも、とにかくサービスを通して“巧流“を知ってもらい、ビジョンに触れてもらうことが大切だと思っています。
誠也さん
誠也さん

日本の手仕事を次代に “守りたい“からこそ新しい攻め方を

ーー最後に今後の課題やビジョンなど、展望を教えてください。

巧大さん
巧大さん
今後も基盤となるベースは飲食業で展開していきたいと思っています。課題としては、いかにこの業態をパッケージ化することだなと。現状は、まだまだ僕や誠也が店頭に立っていないといけないですが、店舗を展開していく以上はある程度属人的な商売を離れたパッケージを作ろうとしているところです。
僕は国内よりも海外に展開するという順番がいいかなと睨んでいます。日本のカルチャーを感じてもらう体験を通して和裁という伝統的な技術があると知ってもらうのは、日本国内よりも海外の方が反響がいいのではないかと。そこから逆輸入という形でもいいので、着物業界を盛り上げ、復活させたいです。
誠也さん
誠也さん
巧大さん
巧大さん
職人の仕事や伝統を守るというのは、新しいことへの挑戦あってこそだと思っています。今ある伝統も生まれた当時は新しいものだったわけですよね。

ーー美容業界も技術を教育で継承する手仕事の世界なので、通じるものがある気がします。

そうですよね! 美容業界も新しいことへの挑戦への抵抗があったり、慣習に固執する部分が少なからずあると思うので……
「美容師なのに」とか「和裁士だから」とかいうことはなく、美容・着物・飲食を通して“着物業界の発展・向上“、その先にもっと面白い世の中を作りたいというビジョンがあるだけ。実現のためにできることはなんでもやりたいという気持ちです。
誠也さん
誠也さん

***

和裁士×美容師兄弟の“着物復興“への挑戦は始まったばかり。

「日本の伝統技術保全」という社会問題に対し、職人一家としての使命感と常識や慣習にとらわれない視点で経営していくというのは、まさに“サステナブル事業“の真髄だと思います。

また、美容業はローカルビジネスですから、読者の美容“室経営者の皆さんにもそれぞれの地域の文化や伝統を守り共生していくという観点で、新しいビジネスチャンスが見つかるかもしれないなと思いました!

▶︎元山兄弟のCafe & bar callオープンまでの道のりを追うYouTubeはこちら!

https://bit.ly/3wA5jtv

ななしま

AUTHOR /ななしま

月刊NEXT LEADER編集部→月刊BOB編集部→書籍編集部。好きなものは宝塚と蛙亭と、赤井秀一です。

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