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なぜ今「渋谷」が新たな美容の聖地に?~渋谷にある美容専門学校の校長に聞いてみた

近年、東京・渋谷は美容室が急増したエリア。長年、表参道・原宿が美容の‟聖地”といわれ、そこからやがて銀座への出店が相次ぎ……。そこからどうして「渋谷駅」周辺が盛り上がりを見せているのか。

渋谷1丁目に校舎を構えて70年の住田美容専門学校、その3代目校長であり、生まれも育ちも「渋谷っ子」である住田知之校長に、間近に見続けてきたシブヤカルチャーの外観を語ってもらいました。

※ 当記事は髪書房刊ムック『シブヤカラー』内インタビューを再編集したものです

渋谷は若者文化を受け入れ、全国に発信する街

自分で「歩いて探す」街は文化をつくる

――住田美容専門学校はこの地に校舎を構え続けており、住田校長も渋谷生まれ渋谷育ちでおられるわけですが、この地域と他のエリアは何が違うとお考えでしょうか。

住田 私個人の文化感ということでよいんですよね。わかりました。

渋谷が他のエリアと何が違うかといいますと、ここは文化を《発祥》することが許された街であるのがポイントだと思います。特定のエリアで発祥した者が全国区になりうるのは、世界的にも珍しいと思いますよ。

特に、渋谷は若者の文化を受け入れて発信しやすい街だと感じています。

――それはなぜなのでしょうか。

住田 渋谷は自分で歩いてモノを探す街だからです。その他の都市はキュレーターが主導してその町の文化をつくっていくんです。百貨店だとか複合施設だとかがあり、そこに《センスのいい人たちが集めてきたもの》が揃えられています。

例えば渋谷で、朝から晩までマルイにいるような人はいないでしょう? この施設でタピオカミルクティーを飲んで、次にタワレコで握手会に参加してといった感じで、必要なものに対して人が歩き回る傾向にあります。

そうして、渋谷系の音楽が特にそうですが、渋谷には渋谷にしかないものを求める人が集まってきます。

デザイナーとか音楽やアパレル関係の感度のよい人が集まってきて、その人たちが選んだものがある街。それが大々的にはやったり宣伝されきったりすると、それを指示する動きは分裂して終了する。そこも他の街と違いますね。

渋谷の街とヘアカラーブーム

――このエリアの美容室はデザインカラーをウリにするサロンが多いと感じます。それは渋谷の街の特性と関係がありますか?

住田 ここにしか手に入らないデザインという意味で、似たような事情だと思います。

ただ、今のヘアカラーブームが特異なのは、普通の女の子がユニコーンカラーなどの派手なヘアカラーで街を歩いているような光景、その例は世界的にも珍しい。だから、今後ブームが過ぎても「終了」せずにやり続ける少数の人がいて、その世代が40代~50代になって……と、その嗜好が醸成されていくことができたら、渋谷発のデザインカラーは「ブーム」から《文化》になるのではないかと思います。

若者カルチャーの街と美容室

渋谷のデザインカラーは全国に

――渋谷エリアのデザインカラーが全国に伝播するのはどうしてでしょうか。

住田 まず若者の街で生まれたり降り立ったりしたものは、伝播しやすいんです。

今や、全国の美容師さんがカットを学んでいますが、これは1960年代に川島文夫先生(PEEK-A-BOO)がヴィダルサスーンのカット技術を日本に持ち帰り、原宿にお店を構えたからだと考えています。銀座ではなくて原宿だったから、カットでつくるヘアデザインが、若者の文化としてすごい勢いで全国に広がっていったのだと思います。

同じように、次にヘアカラーもバブル後の開放的なムードも高まって、《新しいヘアデザインのラインナップ》として原宿を中心に広まっていきました。

――今は若い世代からシニアまでがヘアカラーをしていますもんね。カット&カラーでヘアデザインすることが「当たり前」になった興(おこ)りは渋谷区が起点だったんですね。

住田 私はそう分析しています。もう1つ、今のヘアカラーブームが文化になっていくと思っているのは、現在の80年代回帰のムードとフィットすると思うからなんです。80年代カルチャーといえばデヴィッド・ボウイやシンディ・ローパーの音楽、日本国内ではガンダムなどのアニメ文化が盛り上がりました。そういったものは90年代に全否定されたわけですが、このサブカル的で極端なファッションが、今逆に「イイ」というムードにあります。

その点から見ると、80年代のアニメキャラのヘアスタイルの色味だったり、当時のロックスターのようなパンキッシュなヘアカラーをポピュラーなファッションとして提案できている美容師さんが多い都市は、世界的に日本だけのように感じて。このヘアカラーブームが、ジャパニーズカルチャーとして世界に伝搬することを期待してしまうわけです。

‟何もない街”発の「何でもアリ」な自己ブランディングの時代

――そのヘアカラーブームをけん引するのが原宿ではなく渋谷なのはどうしてでしょうか。

住田 基本的に私は、原宿と渋谷は「若者のサブカルチャーの街」だと思っているんですが、あえて整理すると確かに渋谷区内でも少し性質が違いますね。

原宿はパンクの街。それでいながら、ワシントンハイツを中心に発展した文教地区である分、夜の街にならなかった。あえて言葉にするなら《子供がはじける街》であり、元気になりたい人のカルチャーの街ですよね。

その他、代官山は、表参道は……と特色を細分化してみると、渋谷駅周辺は「何もない街」。しいて言うなら、その時代の《It’s New!!》ばかりが集まっては立ち去っていく街、お祭りの夜店のように。そこが今っぽいのかもしれないと思います。

――「何もない」のが今っぽいとは?

住田 「何もなさ」を逆手にとって文化を発信できるサロンさんが強いと思うからです。強いウリやブランディングで、新しいことをどんどんしかけていく時代ですから、何もない街・渋谷は美容師さんにとって自由でやりやすいのかなと。

今のヘアカラーブームはいい意味で「何でもアリ」。前の時代からの干渉を受けない《自由さ》を感じます。今生まれた新しい「カワイイ」が全国に広がって、20年後醸成されて、新しい文化をつくる。その可能性は大いにあると感じています。

 

学校法人 東京女子文化学園 住田美容専門学校
校長 住田知之さん
すみだ・ともゆき/東京都渋谷区出身。青山学院大学卒業後、タカラベルモント株式会社に入社。同社退社後、住田美容専門学校副校長として学校運営に携わり、2005年に3代目校長に就任。
同校は国家試験合格率、就職率ともに高い水準を誇るが、更にトレンドや文化への造詣を深めることが充実した美容師生活を支えるという思いから、率先したメディア発信や「スミダのとしょかん」設置といった柔軟な発想で学生の教育に尽力する。

ななしま

AUTHOR /ななしま

月刊NEXT LEADER編集部→月刊BOB編集部→書籍編集部。好きなものは宝塚と蛙亭と、赤井秀一です。

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