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ボブログ音楽食堂vol.4 アラ40アラ50にオススメしたい! 69歳の女性ロック・シンガー、クリッシー・ハインドの傑作スタンダード集

前回までのあらすじ:日々〆切に追われるあまり心が荒みきったBOB「変」集者。自分の宿題ブログを営業マンに丸投げしたのがきっかけで始まったこの企画。Vol.4となる今宵も浅草は場末の酒場に集ったふたりが繰り広げる「ボブログ音楽食堂」。美容師の音楽ライフをさらに充実させるべく綴る、名曲/名盤の世界へ、さあ貴方もいらっしゃーい!
連載1回目「心が洗われるような、いい音楽ありませんか?」はこちらから。2回目「踊るROCKに観るROCK、ちょっぴり大人のAOR」はこちらから。3回目「アラ40/アラ50のお手本としてアニーとクリッシーを拝むべし!」はこちらから

【第一章】かのマドンナが師と仰ぐ!ロック姐御クリッシーが68歳で創り上げた大傑作アルバム

easyman(以下e): あー、前回は話の途中で酔いつぶれて悪かった……ん?(編集者がおもむろに突き出した四角いアルミ包を見て)「琉球 酒豪伝説」って…コレ、なに?

BOB(以下B): 取材をコンプリートするための“伝家の宝刀”ですよー!酒豪の国、沖縄県民「お墨付き」のお薬。お友達の照屋琳子ちゃんから「これを飲むと悪酔いしないよー」って聞いたから買ってきたの!前回はアニー・レノックスさんの話しが終わった途端にノックアウトでしたからねー。

e:(酒豪伝説の錠剤をボリボリとかじりながら…)じゃあ今日はクリッシー・ハインドさんの話しだね。前回アニー・レノックスさんの「ノスタルジア/NOSTALGIA」をオススメした時に、“何歳の時に制作したか”に触れたのには、「理由」があるんだよ。60とか70になってもステージやレコーディングで歌い続けているロック・シンガーはいるけれど、もしその音楽が「意欲的」で「創造的」だったならば、それはもう“驚嘆”に値すると思うからなの。で、今回オススメしたいクリッシー・ハインド(Chrissie HyndeValve Bone Woe/ヴァルヴ・ボーン・ウォウというアルバムもまさにそれ!彼女が68歳の時(2019年)にガチンコで取り組んだ意欲作なんだ。

 

B:へー!アルバムカバーのアートワークがすてきー!デザインと配色の温故知新な感じがイイですねー。この画(え)は有名な画家の作品なんですかね?

e:これはクリッシー本人が描いたんだよ。ケント州立大学の美術学部卒だから、ちゃんとした心得があるんだろうね。アルバムと同時にリリースされたアナログシングルのボックスセットでは、一枚ごとに違う画をカバーに使っているよ。

アトリエでキャンバスに挑むChrissie Hynde

【第二章】アメリカ生まれのアメリカ育ち!英国に渡ってPretendersを結成!

B:ところでクリッシーさんってお国はどちら?音楽を始めた時からジャズの人なんですか?

e:生まれ育ちは米国のオハイオ州アクロン。1973年に英国に渡って、ポストパンク(=パンク以降の意)のバンド=プリテンダーズ/PRETENDERSのボーカリストとしてヒットを連発したの。4枚目のアルバム“Get Close”が人気のピークで、特に米国での人気が異常なくらい高い。かのマドンナ姐御はデビュー直前にクリッシーのLiveを観て、「私はこの人みたいなロックシンガーになりたい!」って感動したそうだよ。

Pretenders初期の4作品 左上から時計回りに ”Pretenders”(1980)/“PretendersⅡ”(1981) “Get close”(1986)/“Learning to crawl”(1984)

B:じゃあ本題!クリッシーさんはこのValve Bone Woeというアルバムでは、どんな音楽を演ってるんですか? えーっと、スタンダード集だから…しっとりとした「大人のジャズ」的な?

e:いやいや!ジャズ歌手を気取るどころか!ここでのクリッシーの唄は、ロック・シンガーとしてのスタンスをまったく崩していない。音楽のアプローチは「ジャズ的」だけど、R&B(リズムアンドブルース)の泥臭さやNew Waveの奇抜さ、ブラジル音楽やシャンソンまでも取り入れているんだ。ビーチ・ボーイズのPet Soundsに入っている“Caroline No”のカバーでは、ジャマイカのDUBサウンドを実に巧みに加えていて。スタンダード集だけど、保守的になるどころか大胆な試みの連続!初めて聴き終えた時は、思わず拍手を送りたくなったくらいだよ。

B:このアルバムの編曲とか演奏って、「バンド」のフォーマットなんですか?

e:ジャズに精通した演奏家を集めて固定のリズムセクションを作り、曲ごとにブラスやストリングスを加えて録音した、とても贅沢な作りのアルバムだよ。ロック畑の人が作ったスタンダード集には、レコード会社の“やらせ企画”みたいな作品が幾つかあるのよ。そんな中で、前回オススメしたアニーのNOSTALGIAと、このクリッシーのValve Bone Woeは、今から10年経っても聴き続けていられる「普遍性」があると思うよ。

B:確かに!前回のアニーといい今回のクリッシーといい、スタンダード集なのに「ど・ジャズ」ではなくて。“ああ、これはロックシンガーのアルバムなんだ!”って、聴いていて感じますねー。

【第三章】ビリー・ホリデイが大好きって!?

e:たぶんクリッシーはビリー・ホリデイ(Billie Holiday=ジャズ史上最高位の女性歌手)の最晩年のアルバム=“レディ・イン・サテン/Lady in Satinが大好きなんだと思う。このValve Bone Woeには、ビリーへのオマージュ(=先人への尊敬の気持ちを作品に表すこと)をとても強く感じるよ。

Billie Holiday / ”Lady in Satin”(1958)

B:なにを根拠にそう思ったんですか?クリッシーのインタビューを読んだ?まっ、まさか…本人から聞いたとか!!

e:んなワケないでしょ。アルバムを聴いて「ハッ!」と気付いたんだ。まず ”I’m a fool to want you” は、ビリーのLady in Satinの冒頭に入っている曲でね。レイ・エリスの編曲とトロンボーンのソロやオブリガードまでも、クリッシーはほぼ忠実に再現していているんだ。これは、ビリーへの敬意・愛情を最大限に表したかったのだろうと推察する。”I get along without you very well” ”You don’t know what love is” もビリーのLady in Satinに入っている曲だから、よほど好きだったんだろうね。

B:ところで、さっき話題に出たクリッシーのバンド=プリテンダーズは、もう解散しちゃった過去のバンドなんですか?

e:プリテンダーズとして活動は続けているけれど、メンバーは常に流動的だったの。オリジナルメンバーで録音したアルバムは1stと2ndのみで、バンドが発足した時から不動なのはクリッシーだけ。あ、そうだ!クリッシーはこのスタンダード集のひとつ前、2014年にフィンランドのBjorn Yttling(ビョーン・イットリング)という若い人気プロデューサーと組んで、“ストックホルム/STOCKHOLMというロック・アルバムを作ったんだよ!これがまた、北欧テイスト満載の超かっこいい作品でね。プリテンダーズの全盛期よりもクリエイティブなアルバムだと、聴くたびに思うほどさ。ニール・ヤングも一曲、怒涛のファズギターでみごとな客演を残しているよ!

 

 

【最終章】栄えあるグラニー賞の栄冠に輝く!?

B:へーっ!前回のアニーさんといい、今回のクリッシーさんといい、60歳過ぎてからの作品の方が意欲的でクリエイティブだなんて、すっごく素敵なことですよねー!なんだかやる気がでちゃうー!

e:うん。もし自分がその歳になって、アニーやクリッシーみたいに意欲的でいられるか!?と問われたら、きっと言葉に詰まっちゃうだろうね。ところでさ、アニーのNOSTALGIAとクリッシーのValve Bone Woeは、その年の「グラニー賞(Granny Award)」を受賞したんだけど、知ってた!?

B:ぐっ、グラ「ミ」ーじゃなくって、グラ「ニー」ですかぁ?(…と、早速スマホで “グラニー” をググり)でぇーっ!?グラニーって、「おばあちゃん」って意味じゃないですかー!

e:うむ。やっと気付いたようだな。さーて、すみませーん!プレミアム生のおかわりとホッケの一夜干しを追加ねー!

【編集者あとがき】まさかの泥酔で取材が2回に渡った「アラ40アラ50のみなさまにオススメしたい!」音楽食堂vol3. / Vol.4は如何でしたか!?まだまだボブログ読者のみなさんにオススメしたい音楽、たーくさんありまして。えーっと、候補は……(と、紙ナプキンに書き殴ったぼろぼろのメモを開き)「ミュージカル映画とサウンドトラックアルバム」 「静かにしていたい時に聴くアルバム!?」 「沖縄音楽ストライク!Thank you三線!」 「大人への登竜門!ずーじゃー(JAZZを逆さまに読む)!」 「SSWってIT用語!?それはシンガーソングライターだ!」「ブランコじゃなくてブラ・コン!」…などなどがあるそうでーす!次回は1月の半ばに投稿予定ですよ!

easyman

AUTHOR /easyman

ビートルズが来日した年の生まれ。美容師・介護士の免許と実務経験があり、座右の銘は“髪(かみ)のケアから下(しも)のケアまで”。某美容メーカーの教育部門に19年間勤務し、なぜかプロ音楽家との演奏経験あり。一人しかいないのにナンバーワン営業マンと呼ばれる髪書房の特攻隊長。

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